さくらぐみ@赤穂
既に年は明けて2009年になってしまいましたが、相変わらず2008年の食の事を書いております…。
これは08年秋に行った関西ツアーの幕開けに選んだ店。この店だけは、例え食後の感想がどうであろうと必ずblogに書くつもりでいた。それくらい長年行きたかった店である。まぁ今更別に俺がうやうやしく紹介しなくても、「日本で初めて『真のナポリピッツァ協会認定店』となった店」として有名過ぎるくらい有名であるから、基本的な情報は省く事にする。
この店に初めて訪れる上で一つだけ注意した事は、「期待しすぎない事」である。俺が初めてこの店の名前を知り、いつかは必ず訪れたいと思った頃と比べれば、自分自身の経験値は確実に上がっている一方、行けない期間の長さの分だけ期待値は膨らみまくっているからである。どんだけ気をつけても恐らく食後感には(良きにつけ悪しきにつけ)バイアスがかかるだろう。これまでの経験上、「食いたくなったら直ぐ行った方がいい」のは十分分かっている。その期間が短ければ短い程良い。それがその店を最も楽しむ秘訣である。そしてそのフレッシュな感動を、後々自分で否定しない事だ。例え何年か後に行って後悔したとしても。楽しむ感性を持っているということは、それだけで素晴らしい事なのである。
ピザ屋でなく正統なイタリアンとして扱って欲しいという気持ちの表れなのか、予約時に「夜は価格固定のコースのみになります」と言われていたので完全フィックスかと思っていたが、どうやらその日の素材をどう料理するかは当日決められるようなので、「メインいらねぇからピッツア4種類食わせろ」とだけ言っておいた。店のコンセプトは完全無視w。俺は基本的にその店のコンセプトは尊重したいと思っているので本来は滅多にこういう事を言わないのだが、それくらい、「日本のパイオニア」のピッツアを楽しみにしていたのだ。
さて、店の近くに到着するとそこは綺麗に整備された城下町。夜は人気があまりにないが、雰囲気はとてもいい。城門に近い商店街の一角に何の違和感も無く佇む店の外観は、夜なので細かくは分からないが好みの空気感を漂わせている。しかし店内は想像以上に雑然としていて、良く言えば南部の港町の食堂みたいでいい雰囲気だが、忙しない感じは馴染めない人もいるかもしれない。店の壁にある巨大な黒板に書かれた素材を見ながらコースを組み立てていく。赤穂ならではの魚介の名前が多く載っていたので触手が動き、アンティとメインは普通に頼み、ピッツアは2枚に4種類(つまりハーフ&ハーフ×2)を盛り込んでもらう事にした。余り好きな手法ではないが仕方ない。
まずは前菜というよりアミューズ的にサラダ仕立てのゼッポレが登場。これで「うちの生地を試してみてよ」という寸法だ。いや、期待過剰で臨んだ割には印象は悪くない。海苔の香りは薄いがモチモチとふんわりのバランスはなかなかに好みである。この店は言わばつけ麺でいうところの東池袋大勝軒であるw。そういう視点で捉えれば期待に十分応えてくれたと言えよう。
サラダは自家製梅肉ボーク(?)のリエットとカッチョカバッロを添えてある。リエットは別に梅肉を感じるものではなかったが、肉感を十分残したものでなかなか。カッチョカバッロは、感動するものではなかったな。野菜は流石に美味い。特に食べた事の無いキノコのグリルが散らしてあって、これが美味かった。聞いたら赤ヤマトリダケというキノコ…お?ヤマトリダケってポルチーニの事でなかったっけ? 日本でも採れるのかね? 味は輸入のフレッシュポルチーニとは少し違った(まぁ勿論本物のポルチーニの方が美味いが)から、日本で採れたものなのだろう。手に入るのなら俺もこれでパスタ作ってみたいなぁ。今度調べてみようっと。
次はいよいよか?、と思ったらまたサラダw。俺はウサギか? バッカラとオリーブ、トマト、赤玉葱のマリネ。これはまぁ、バッカラの戻しは良いし野菜も味が濃くて美味いし、特に文句は無いのだけど、なんかこう捻りがないというか、小細工しないにも程があるというか…盛り上がりを感じにくいコース内容である。
まだまだ前菜は続く。小ダコのアッフォガート。小ダコといってもそれなりの大きさがあり、食べ応えは十分。これも、勿論瀬戸内海で上がった素材は美味いし、それをシンプルに調理すれば美味くなるのは当然だが、コースをメインにしたいのならもう少し凝った味付けでも良いと思うが。これをそのまま東京に持って来ても恐らくアッフォガート(溺れる)してしまうだろうなぁ。まぁピッツァが売りなのだから、他の料理に多くは語らないようにするが、これなら夜はコース限定なんて背伸びしなくても、素直にピッツァを前面に出した内容でもいいと思うが。
さていよいよご本尊登場である。一体何年待った事か。正直、これが美味ければ他はどうでもよろしい。そういう気持ちで来たのだ。幾ら「期待しすぎるな」と自分に言い聞かせても、目の前に登場するとそんな自制は軽く吹き飛ぶ。それだけのビジュアルである。一部炭化しているのが気になるものの、それ以外は魅惑のボディw。特に淵の盛り上がり感がなんともグラマラス。ハーフ&ハーフなんて姿にさせてご免よ…。
まずはラディッキオと生ハム、モッツァレラとズッキーニのコンビネーション。最初はトマト無しで生地を味わう。なるほど、流石にモチモチ具合も塩加減もとてもいい、が、ちょっと重いかなぁ。口中ダンスするようなふんわり感に若干欠ける。しかしここから現在の日本のナポリピッツァの隆盛が始まったのだと思えば感動しないわけにはいかない。ラディッキオの苦みと生ハムの甘い脂、塩味のコンビネーションは俺の最も好きな組み合わせの一つだ。満足しないわけが無い。水牛のモッツァレラも、ベストではないがまぁまぁのものを使ってる。やはりピッツアにモッツァレラは水牛に限るわな。
続いてトマトソースで。これも俺の好物だらけだ。チェチェレネッラ(シラス)と、たっぷりのリコッタ。トマトはフレッシュと組み合わせて酸味を強調。シラスとの組み合わせは最高だ。生地とのバランス的にはちょっと軽いけど、まぁよし。特筆すべきはもう反対側のリコッタ。このリコッタが異常に濃厚で美味い。以前大垣の煎餅屋から貰った吉田牧場のフレッシュチーズを少し彷彿とさせたが、あれほど上品でない分パンチがあり、ここの重めの生地とのバランスは絶妙である。聞いたらイタリアから輸入したものらしいが、たまにあるんだよなぁ、一昨年IVOで食った神がかったモッツアァレラといい、こういう当たり物件が。これが食えただけで来た甲斐があった。
ピッツァはあっという間に平らげ、すぐさまメインに移行。明石…かどうかは聞かなかったが、小ぶりの鯛とキノコ、ジャガイモの煮込み。キノコはモミダケと正源寺だ。ピッツァの後だからというわけでなく、これも感想は前菜とほぼ一緒。素材は良い。が、調理は家庭料理とまでは言わないものの、特筆すべきものではない。ピッツァのように一つの型があるわけではないのだから、もっと冒険、もしくは主張を期待したいところだ。
ドルチェは何故か二皿。というか最後のキャラメルとチョコレートはカッフェと一緒に出て来たからお茶請けかな。しかし生のザクロなんて久しぶりに食べたなぁ。この酸っぱさと種のガリガリ(懐かしい)が、中に包まれている先ほどのリコッタ、かかっている蜂蜜とこれまた相性がいい。アイディア勝ち。ピスタチオのパルフェ方はちょっと甘過ぎかなぁ。まぁイタリアンだからな。下のトローネもちょっと固い。
帰りは人気の無い赤穂城を散歩しながら初めてのさくらぐみ体験を反芻。やはり期待が大き過ぎたのは否めないが、コース限定にするにはピッツァ以外の料理に華が無さすぎて、あらためてピッツェリアにおける他の料理の難しさというか、立ち位置の微妙さを感じずにはいられなかった。例えば俺の好きなピッコラ・タヴォーラにしても、ピッツァ以外の料理にはあまり魅力を感じないし、総じてシンプルだけど、ただそれだけというものが多い。ピッツェリアの宿命なのだろうか。しかしダ・イーヴォのようにちゃんと満足出来るものを出す店もある。さくらぐみが初めて認定を受けた頃と比べて現在はナポリピッツァ百花絢爛である。それを考えると「ただそれだけ」では最早駄目なのかもしれない。それを感じ取って、さくらぐみも色々と挑戦しているのだろう。第一人者として、早くものになる事を期待するが、俺はあくまでピッツァ一筋でやって欲しいと思う。
ところで「真のナポリピッツァ協会」認定の店だからといって、美味い店ばかりというわけではない。認定されてなくても美味い店(アオキ・タッポストとか)もある一方、「一体どんな審査したんだよ!」と切れそうになるほど駄目な店もある(どことは言わんが用賀の…あんなの認定しちゃいかんよ)。最近特に認定店大杉なんじゃねーの? 最早形骸化したブランド?といぶかしみたくもなるが、このblogでも随分前に紹介したベルパエーゼ改めレ・アルカーテやアミチなど応援したくなるような店も沢山あるので、どう捉えて良いのかなかなか難しい。まぁいずれにしろ、ブランドや雑誌ネット記事など外部情報は全て参考程度にしかならないという事だ。勿論このブログも含めてねw。