◆総括
今年は、ミートホープ事件や賞味期限切れの話をはじめ、さまざまな食にまつわる問題が世間で騒がれた年だった。これについては言いたい事は色々あるが、大体この時書いた事の延長線上の話なので割愛。俺はそもそも、普段から魚や肉は市場で買ってきて捌いているし、スープストックやトマトソースを作って冷蔵庫に寝かせているし、チーズや生ハムなども塊で常備されている。それらが鮮度抜群の『美味い』状態から、どういう段階を経て『食えない』状態になっていくのかを知っているから、賞味期限などというものは全て自分で判断して決めるべきものだと思っている。昔の主婦は皆そうだった。魚屋や八百屋で、店の親父やおかみさんと会話しながら買い物して、それらを自分で調理していれば、それが冷蔵庫の中でどうなっていくか、美味く食える時期や調理法はどういったものがあるか、皆当たり前のように知っていたのである。別に料理が上手いか下手かを言っているのではない。『そういうスタンスの生活をしているかどうか』を言っているのだ。
しかし、ご丁寧に、メーカーが半ば主観的に決めた賞味期限のシールが貼られた、コンビニ弁当やスーパーのパック売りの食材や冷凍食品に慣れた消費者が、今更そんな時代に戻れるとはとても思えない。一旦甘やかされて育ったのだから、大半の人間が、問題に対して自分の無知を棚に上げて単にヒステリックに文句をまき散らすだけしか出来ないのも致し方ない事だ。食育だマクロビだ、ロハスがどうとか言っているが、多分今の子供は危ないからといって包丁すら持たせて貰えないのだろう。この、食の世界全体を覆う『過保護感』が(書物の上だけでなく体験として)知るという行為を妨げ、そういう態度が消費者側に蔓延してるから、メーカーもそれを感じ取ってつけあがるのだ。
一方そんなご時世にも関わらず、相変わらずグルメブームは続いてる。ミシュラン東京も発売されたし、雑誌もグルメ特集ばかりだし、tabelogや一般blogでも美味い店紹介は百花絢爛だ。しかしその大半は、上記の『過保護感』一杯の人間が、その価値観を前面に出した文章なので、リアリティも説得力もへったくれもない。ひどいのになると、光り物が好きではない人間が寿司を語ったり、コルニチョーネ(耳)を残す人間がナポリピッツァを語ったり、一体何を基準に『美味い』と評しているのか、もはや俺には理解不能なものもあったりする。抽象的だが、そこに食に対する愛を全く感じない。愛のなさゆえの無知も蔓延している。無知ならまだしも、愛もセンスもないのに知識『だけ』ある人間(もしくは、知識さえあれば語る資格があると思っている人間)が最もタチが悪いのだが、そうとしか思えないような記述や会話を目の当たりにする機会が年々増えていっている。別に悲しくも腹立たしくもないが、可哀想だとは思う。
このblogで毎年やってる『美味かったBest20』。今年は海外も含めた東京以外の店が大半をしめた。それは多分、多かれ少なかれ、前述のような世の中の空気がそうさせているのだと思う。ミシュランも含め、今都内で騒がれている店や、それを評価している記事や人間に全く心魅かれないのは、今よしとされている、ある種の価値基準に全く同意出来ないからであろう(唯一、ディスカバリーチャンネルでやってる『No Reservations』は、ある意味共感出来るスタンスだと言えるw)。それはすなわち、前述のように、その情報量に比しての根拠、よりどころ、モチベーション、(俺の言葉で言えば愛)のあまりの希薄さゆえの説得力の無さだと思う。
それに、誤解を承知で敢えて言えば、都内の店というのは、江戸前の食文化、もしくはその店だけの独自の料理を除いては、大半はサンプラー、コンピレーション、リイシュー、つまり『それに近い味』でしかないのだ(勿論、まれに本物もあるし、場合によっては本物を越えてしまったものもあるかも知れないが、ここではそういう意味で言っているわけではない。存在意義は確実にある)も。それらを通してその料理の魅力を知る事は重要だが、イタリアン、フレンチ、中華など海外の食は勿論、日本の地方料理にしたって、よくも悪くも、オリジナルはその土地にしかない。よく考えれば当たり前の事である。勿論東京近郊に比べて地方は、外れの比率が高い。が、当たればそれは紛れも無く『本物』である。都内と地方を食べ比べるにつれ、本物とは何か、オリジナルとは何か、その事を考えさせられた一年だった。
そうすると、勢い地方に目が向いてしまう。俺の好みに合う、食と純粋に、真摯に向き合ってる店を選んでいくと、結果的に地方の店ばかりになってしまったのは、多分そういう事だ。したがって、都内近郊にお住まいの方々にはなかなか参考になり辛いBestであろうが、どの店も、都内の同種の店の何倍もの満足を得られる事は間違いない。まずは紀行もの的に行ってみた気になって読んで頂いて、何かの機会があれば是非一度足を運んでみる事をお勧めする。
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