'07 茨城縦断食い倒れツアー 〜その8:三日目昼食〜
◆三日目昼食:大浜丸魚力@大津
この旅で唯一残念だった事は、思い立った時期が春だった事。それはすなわち、茨城に来たならまず最初に食わなくてはならないであろうアンコウの旬を外していると言う事だ。実は俺の脳内では、茨城でアンコウ(特にドブ汁)を食うという願望は年明けくらいからあるにはあった。しかし、しがないサラリーマンがそれほど頻繁に食い倒れツアーに出てるわけにもいかないので、『東のアンコウ西のフグ』のうち、今年は断腸の思いで西のフグを取った。つまり、『旬のアンコウで鍋は食えない』というのはハナから計画に織り込み済みだったということだ。これは本来ならば、俺にとってこのツアーを断念してしかるべき事態なのであるが、それでも決行出来た理由がこの店にある。
ご存知の通りアンコウの時期は冬であり、それを外せば(美味いアンコウは)食えない。この、アンコウ鍋で有名な魚力でもそれは同じ。しかし、旬を外した春から夏にかけても、なんとか旬のアンコウの味を楽しんでもらおうと、この店のおばあちゃんが考えだしたのが『アンコウ煮込み丼』である。ちゃんと七つ道具(肝、とも(胸びれ、尾びれ)、ぬの(卵巣)、柳肉、水袋、えら、 皮)を使って煮込んだアンコウの美味さをこの時期に楽しめると言う事は、わざわざ遠回りしてでも出かける価値があるという事だ。
行ってみて分かった事だが、この店はロケーションが凄くいい。店の目の前に海が広がり、ちょっと登れば灯台があって大津の海が一望出来る。このロケーション、先日美味いフグを堪能してきた安乗に凄く似ている。やはり美味いものがあるところは景色まで似てくると言う事か。いや、そもそもこの美しい景観が保たれているからこそ、本当に美味いものが堪能出来るのである。感謝無くしては食えない。東京ではなかなか実感出来ないこういう感慨に浸れるのも食い倒れツアーの魅力だ。
まずはとも酢で頂く。プリッと弾ける身は旬を少し過ぎたとはいえ健在。身の暖かさに対して、他の素材との温度差もいい。そしてなによりキモを溶かし込んだ濃厚な酢みそが素晴らしい。これのおかげで、先付け的に扱われがちなとも酢を、立派な一品ものとして自立した料理としている。流石に自らのHPに『あんこう料理絶品のお店』と書くだけのことはあるw。肩書きに偽り無しだ。
そしてこれが今回の旅で最も楽しみにしていた料理、アンコウ煮込み丼だ。時期が時期だけに『食べられない事もある。食べられた人はラッキー』とかHPに書かれていたので心配していたが、無事目の前に表れた。もう漂ってくる磯臭い香りだけで(嬉しさのあまり)倒れそうだ。そうそう、これがアンコウだよなぁ。身だけじゃこの香りは出せん。そしてその香りが示す予感通り、味も全く期待を裏切らないもの。身はジューシーさを充分保っており旨味充分。味付けは少し濃いめなれど丼ものとしてはちょうどいい。そしてかき込むごとに鼻に抜ける磯の香り....至福というより他ない。
冒頭でも述べたように、両者ともに捨てるところが無い魚として、また鍋が美味い魚として、『東のアンコウ西のフグ』と言われ比較されているが、個人的には、柳肉(身)は天然のトラフグの方が深みがあって美味いと思う。しかし7つ道具揃った時のアンコウのパンチ溢れる魅力は、確かにフグと比べても遜色ない魅力を放っている。肉でいえば、フグの、言わばA5松坂のフィレ的洗練に対して、アンコウは野趣溢れるジビエ的な魅力だ(よく考えてみればどっちが凄いという話でもない)。そして、フグと違って実はアンコウは東だけではなく全国各地で揚がる(実はアンコウの水揚げ量No.1は下関らしいw)が、それでも『東のアンコウ』と言われるのは、東のアンコウ(キアンコウ)の方が西のアンコウ(クツアンコウ)より確実に美味いからだ。先日あらためて知ってしまった西のフグの凄さの記憶がまだ生々しい今だからこそ言える。東のアンコウもとんでもないと。今年中にもう一度、今度は念願のドブ汁を堪能したい。
ただし、この店にも欠点はある。人気がありすぎるのか単に店側の仕切りが悪いのか、混雑が激しくて料理が出るまで凄く待たされるということだ。特にこの日はGW中という事もあって出てくるまで1時間近くかかった。今回はのんびり車の旅ということもあり、時間に融通が利くゆえ俺は特にイラつきはしなかった(景色も長閑で良かったしね)が、自分たちが捌けるキャパを把握して、入店制限するなり混む時期だけ人員増員するなり、商売上考えなきゃならん事はもっとあるような気はする。この辺のユルさは土地柄なのだろうか、慈久庵しかり、待たせても仕方ない的なあきらめを感じる。西方面に行ってこういう事はあまり感じた事は無いのだが、こういう商売っ気というか、待たせない工夫は西の店に見習って欲しい。
さぁ、ようやくこの旅もフィナーレが近づいてきた。大津から海岸沿いをひたすら南へ戻り、二日目の朝にちょろっと寄った大洗に再び舞い戻るべく、ひたすらハンドルを握る。