'07『中部3県食い倒れ紀行』その5〜3日目の昼食
やはり脂が良い所為だろうか、日頃の行いが良い所為か、二日連続であんだけの量の肉を食らったにも拘らず、さらに昨夜は、岐阜の気の置けない面子で、酒は勿論料理も美味いという(流石に食べてないが)徒然にて夜3時近くまで盛り上がったのに、最終日の朝も実に快調快腸の朝を迎えた。むしろ新横浜を出る時よりもいいかもしれない。最近は病人食のような食事を喜んで食べる輩が増えてるようだが、マクロビなんとかみたいなお題目を唱えるよりも、単純に新鮮で美味いものを食う事の方が身体にも心にもずっと有意義だろうとの思いを、こういう旅をするたびにあらためて強くする。
さて、今日のランチは、この旅最初で最後の海の幸だw。とはいえ、恐らくこの一食を紹介するだけでも伊勢志摩の魚介の凄さは十分伝わるだろう。なんてったって、今が旬(これ書いてる今はもう終わっとるが)の安乗の天然トラフグをメインに、伊勢エビ、アワビをコースで頂こうと言うのだ。北品川でおなじみの超巨大ミルキー牡蠣が取れる的矢と、この安乗に挟まれた的矢湾という港が、全国でも有数の素晴らしい魚介が食せる環境なのだということを、これからテーブルの上に並ぶ皿の数々から感じて頂ければ幸いだ。
◆三日目昼食:小山荘@安乗の天然トラフグコース
朝9時過ぎに名古屋を出て、特急一本で昼前には目的地の最寄り駅、鵜方へ。小山荘という名前からも分かる通り、今回の店は食事処ではなく民宿なので、例えランチのみでも車で迎えに来てくれるのが有り難い。快晴の空のもと、田舎道を20分弱揺られ、昼前にはもう360度パノラマビューが素晴らしい安乗岬に到着だ。道中に見下ろせる海の青の濃さと素晴らしい景観を見るだけで、穫れる魚の凄さが容易に想像出来る。そういえば長崎の五島に少し似ているな。
安乗でフグを食うのは初めて...というか、そもそも三重県に足を踏み入れるのも初めてなので、この食事に関しては今回の旅の中で最もネットで良く調べた。色々な情報から察するに、どうもこの地でフグを食うには料理屋よりも民宿の方がいいらしい。中でもこの会が最も信頼できるというか、この安乗のフグ観光を牽引しているようだ。とりあえずこの6人衆の宿に、リストの上から順に電話をかけまくったのだが、昼のみはやってなかったり既に予約いっぱいだったりで、最終的に予約が取れたのがこの小山荘。安乗岬の突端に位置し、シチュエーション的には一番素晴らしい環境にある宿だ。
宿からちょっと歩けばすぐ岬の突端の安乗崎に行ける。そこには灯台もあって、三方海の気持ちのよい公園になっている(ここは伊勢志摩国立公園の中だ)。見よこの素晴らしい景色を。こんな環境で、関にも負けない(というか、あまりに質が良いので密かに関にも持ってってるらしいw)トラフグをまったりと食す。これを贅沢と言わずしてなんという。勿論、今回食事をする部屋も窓から海が一望出来る。
さて、そろそろ料理にまいりましょう。まずは小鉢でフグの皮を。切る場所と味を変えて3種類のバリエーションで楽しむ。この皮のフルフルと弾力溢れる食感と噛む程に広がる甘みだけで、その辺のフグとの違いは歴然と分かる。やはり噂に違わぬ次元の違いだ。フグとは本来どういう味の魚なのかは、こういうレベルのものを食わないと分からないんだなぁと、あらためて思い知らされた。
続いて皮せんべい。とげが舌に引っかかる感じがまたこの魚独特の食感で楽しい。そしてなによりこの香ばしさ.....日本で最も贅沢な味わいのせんべい。
早速お待ちかねのテッサ。壮観に大皿に並ぶのもいいが、これが一人分なんだから一人一皿ってのもいいねw。鮎焼き名人の泉屋さんによると、淡水海水を問わず、天然の魚とは身がクリーム色をしているのだそうだ。何故なら天然の魚の脂は黄色いから。したがって味が良く脂が乗ったものほど濃いクリーム色をしている。勿論フグもしかり。このテッサもご多分に漏れず、透き通るようなクリーム色だ。当然旨味甘みも濃い。そしてこの気持ちのよい噛み応え。この薄さなのに上品な旨味が噛む程に溢れる。これだけのために、名古屋から特急に2時間近く乗ってくる価値がある一皿。
唐揚げ。余計な味付けなどしなくても、少しの塩だけで十分感動に値する味わい。衣に閉じ込められて油で活性化されたフグの旨味がはじける瞬間はの至福は、もはや筆舌に尽くしがたい。ちなみにこれは、この後出てくるテッチリに入れる身があまりに多いため、間引いて唐揚げにしてもらったものだ。こういうことも嫌な顔一つせず喜んでやってくれる。仲居さんの細かい気配りも随所に効いてて、折角ここまで来たのだから、目一杯フグを楽しんでもらおうという想いが良く伝わってくる。この景観とともに、東京で万扎何枚払っても買えない価値だ。
今日はこれが目的でここまで来たと言っても過言ではない、天然トラフグの白子。元々白子ってのはイサキでもマダラでも十分美味いものだが、誰が何と言おうとこの世で一番美味い白子がこれだ。この独特の香しい香りは、焼いた時に初めて真価が発揮出来ると思うので、鍋に入れる分まで焼いてもらった。断言する。この地のフグの白子焼きは、誰もが人生で一度は食うべきものである。
折角なので、オプションで伊勢エビとアワビもお造りで出してもらった。ともに小振りだが甘みの強い『流石伊勢志摩!』と叫びたくなるような旨味と身の詰まった極上の味わい。鮮度も申し分ない。特に伊勢エビのミソを醤油に溶いて(新鮮なんであまり溶けないけど)食うと舌も心も蕩ける。ちなみにどちらも一人一匹であるw。昼間っからこんな事をして、至福を通り越して最早背徳感すらある。
箸休め的に茶碗蒸しが運ばれてくる。上にあしらわれて一緒に蒸された皮が、最初の小鉢とは全く違うねっとりとした食感をたたえていて美味。勿論卵の方にも十分過ぎるほどフグの味が染み込んでいて実に味わい深い。そして嬉しい事にここにも白子が(さっきの一個分ぐらい)ゴロンと入ってる。蒸された白子もまた素晴らしい。やはりキングオブ白子だ。こんな贅沢な箸休めも無いだろう。つーか箸なんて休まらないっての。
いよいよメインのテッチリだ。これで二人分の量なんだが、フグはこれでもさっきの唐揚げ分(×2名分)間引かれている。しかも一切れがデカい。いい忘れたが、安乗の天然トラフグというのは、700g以上の大きさでないと『あのりふぐ』とは認められないらしい(690gは雑魚なの?)。当然この宿で使われるのもこのサイズ以上のものだ。それが味にどう反映するかは、言うまでもないだろう。今までの(フグという名の魚)は一体なんだったのかという程レベルの違う肉質は、この鍋に最も良く表れていた。フグとはこれほど味のある魚だったのだ。勿論上品な味わいなので、質が落ちればただ淡白なだけになってしまうのだろうが、この独特の味と香りは他の魚には無いものだ。
食わないと伝わらないのは重々承知しているのだが、しつこくこんな写真を載せてまでこの身の特別な弾力感を伝えたい。プリッと弾けるのにしっとりと滑らかな矛盾を抱え込んだ肉質。いつまでもチューチューと吸っていたくなる骨の持つエキス。某都知事が、他の食い物ならいざ知らず、こんな凄いものを人の税金使って食い散らかしてたのだとしたら、本気で殺意を覚える。
勿論皮だって、小鉢や茶碗蒸しのそれとはまた全然違う独特の味わいを醸し出す。アンコウの皮もまた美味いが、正直これに比べると多少大ざっぱな感じは否めない(その分力があるともいう)。
先ほど出た伊勢エビのお造りを一切れ取っておいて、テッチリのスープでしゃぶしゃぶしてみた。実はこれがやりたくてわざわざオプションで注文したのだ(アホ)....もうため息しか出ません。この瞬間この部屋に警察がなだれ込んで来て意味も分からず取り押さえられてワッパはめられても、恐らく一瞬納得してしまうだろう。それほど反則過ぎる美味さ。人はあまりに美味すぎるものを食うと罪の意識にとらわれる。『どうせならなんでアワビも1切れ取っておかなかったのだろう...』という後悔の念が、もはや死罪も免れないと思わせられるくらい罪の意識を増幅させる。まぁ、食いながらこんなアホ過ぎる妄想が頭を巡ってしまう程の味ということだ。
とうとう〆の雑炊まで来てしまった....頭の中にキャンディーズの『微笑みがえし』がこだまする。この天国のような状況がもうすぐ過去のものとなってしまう。もう既に腹は満腹だが、『もう一度最初からやり直したい』と本気で思わせるほどの引力がこの雑炊にはある。これまで味わってきた至福の皿の数々の全てがこれには詰まっている。死に際に見る走馬灯のような凝縮感だ(って死んだ事無いから分からんが)と言っても大げさではないl。フグとはそういう魔力のある食い物だ。これほどの豊かな味わいを持ちながらカロリーが殆どないという矛盾に満ちた食材なので、狂ったようにスルスルと食えてしまう危険度は、他の食い物の比ではない。その凝縮感に加えて上に散らばってる海苔がまた凄く香り高い。伊勢の海苔もまた極上だ。
ちなみにこれでハーフコース(伊勢エビとアワビをのぞく)なので、調子に乗ってフルコースなんてものを頼むとどういう事になるのかは想像に難くない。普通の人はハーフで十分だと思うが、逆にフルコースだとどんなもんが出てくるのか体験してみたい気もする。
しかし、フグほど質がものを言う、ある意味誤解を生みやすい魚も無いだろう。大阪などで安いフグを食わせる店は沢山あるが、あれほどの無駄遣いはないと思う。4000円も5000円も出して味も素っ気も無いフグを食うくらいなら、他に美味い魚は沢山ある。それくらい出すのなら、沼津あたりに行って、美味い寿司をたらふく食った方が全然いい。素直にああいうのがフグだと思ってしまうと、そりゃ『フグなんて言う程大して美味いもんでもないよなぁ』と言う輩が現れるのも無理は無い。そういう人は迷わずこの地を訪れた方がいい。これほどのフグを東京で食ったら、果たして万札が何枚飛ぶか分からないが、ここなら、素晴らしいランドスケープと庶民的だが気の置けない心遣い込みでこれ以上無いコストパフォーマンスで味わえる。コストパフォーマンスという意味では、ゆったり一泊して、そのまま熊野古道や丸山千枚田まで足を伸ばしてみるのもいいかもしれない。よし、今度はそういうプランで行くとしよう。そしたらサンマ寿司も食えるなw。また必ず訪れる事を心に決めて、安乗を後にした。
◆伊勢マリンランド@賢島
夢のようなランチを反芻しながら、行きと同じく宿の車に揺られる。宿を出る時に女将に次の目的地はと聞かれて『名古屋に戻る前に、腹ごなしに志摩マリンランドでも行こうかなと思ってます』と告げると、なんとそこまで送ってくれるという。なにせ家族経営のこじんまりした宿なので、店主自らの運転だ。どこまで優しいんだろうかここの人は。そんなわけで、まだ口の中に至福の余韻が残っている状態であっというまに水族館へ。腹ごなしでもなんでもない。
ゲートをくぐると建物より先にまず大量のペンギンの阿呆面が出迎える。殆ど自分のグランドレベルと同じ地平にいるので有り難みも無い分出迎えられてる感が強く、ホッコリ嬉しい気持ちになる。こういう演出も珍しい。
ここの水族館の売りはデカいマンボウらしい。マンボウってのはなかなかアホな魚らしく、ボケ老人のごとく自分の泳ぎも上手く制御出来ないので、ボコボコ頭を壁にぶつける。意外と育てるのが難しい魚なので、ここまでデカく育ててるところも珍しいらしい。しかし保護のため水槽の四方の内壁はクッションに覆われているので、生まれながらにリハビリを余儀なくされてる人のようで、癒されると言うより痛々しい。新鮮なところを刺身で食うのはなかなか美味いらしい。アシが早いので市場に流通はしないが、いつか食ってみたい。
近代的な外観の割には中は結構うらぶれた感じ(この日の客層の所為かも)で嫌いではない。中でも、ドーナツ型の巨大回遊水槽が、品川や金沢八景に見慣れた目にはこじんまりとしてて、魚もこれ見よがしに珍しい魚もなくとても癒される。ここで定期的に行われるメインイベントが海女さんの餌付けショー。名前を聞いただけでそそられる。写真のように、海女さんコスの女性が回遊水槽を泳ぎながら魚に餌をやるんだが、餌をやるというよりは、どうみても襲われてるようにしかみえないほど激しく魚にたかられる海女さんの動きが妙にエロい。ふと気づくと俺の周りに子供でなくじじいが多いのも頷ける。確かに子供が海女さんで喜ぶかどうかは微妙なところだが、俺的には時間は短いが予想以上にオモロいアトラクションで、一気に得した気分になった。
気づくともう時計は16時すぎ。腹もすっかりこなれて、次はとうとう本ツアーラストの食事である。場所は再び名古屋。トリを飾るに相応しい、北品川の親父も名門の中村店長をも凌駕する爆裂キャラのおばちゃんが待っている。この日一緒に食事をしてもらう予定のエイジマンにも無事連絡が取れ、後は行きと同様特急に2時間揺られるだけだ。電車で一眠りして最後の晩餐にそなえるとしよう。
(続く)
Comments
中途半端な河豚しか食べた事ないです。。。
求む!美味しい河豚!
しかし、青が綺麗やね。
Commenter: モー | 2007年03月05日 11:15
もー:
そうだねー、東京だとやっぱ麻布十番の『小やなぎ』になるのかな、昔一度行った事あるけど、東京ではコストパフォーマンスいい店だと思う。それでも白子追加したら20000円は行くけど。
俺なら、シチューエーション込みで安乗に行くね。旅行だと割り切って。逆に、そういう場所に行かない限り、東京では中途半端なフグはもう食いたく無い。
Commenter: pasta-man | 2007年03月07日 18:48