Mardi Gras@銀座
以前書いたような気もするが、数多あるレシピ本の中で、俺が『これは参考になった』と折りに触れ読み返すものが3冊ある。そのうちの一冊、モツ・キュイジーヌという本の3人の著者の一人、和知氏の店がこのMardi grasだ。もうすでに有名な店であり、多くの雑誌やblogに紹介されている。曰く、『豪快な盛りつけと量』『男のフレンチ』『シェフは肉以外に興味ない』などなど、その書きようはなかなかにセンセーショナルである。クォリティの高い素材の良さを生かしたシンプルな料理法に豪快な物量感。つまりあれか? フレンチ版北品川か? それなら行かいでか! と思いつつ、でも銀座だし、予約も取り辛いと聞くしなぁ...となんとなく躊躇しつつ時は経ち、この日SIOちゃんの誘いに乗ってやっと訪れる事が出来た。
料理も楽しみだが、この日一番楽しみだったのは、現SIOちゃんの相方でもあり、我が家では『紫の肉の人』でおなじみwのM氏にやっとお会い出来るという事だ。ことあるごとにフレッシュ和牛やモツを大量に、何の見返りも求めず(例えばこんなのやこんなのをバーンと)送ってくれて、ウチでは最も神に近い存在でありながら、今まで会った事も無ければ『SIOちゃんの友人で神戸在住』という事以外素性すら良く知らなかった。是非一度お会いしてお礼を言いたかったのだ。果たして、とうとう初対面と相成った彼の第一印象は、想像通りの穏やかさとシャイさで、陰を全く感じないまるで太陽のような印象の方であった。そんな、面子にも恵まれた食事会、楽しくないわけが無い。その楽しさに見合うだけの料理が出たのかどうかは、以下のレポートでご確認あれ。
まずは突き出し的にフォカッチャとスペインオムレツが登場。突き出しなのになかなかの物量感。これはハナから期待させるではないか。おまけに味付けも濃厚というか、パンチがあるというか、オムレツはそうでもないのだが、こんなに脂っこく重いフォカッチャ初めて食ったw。バターを溶かさず練り込んで焼いてる感じ。普段食ってる相方のパンが特にこれと真逆の方向性なので余計にそう感じるのかもしれないが。とまれ、初っぱなから噂に違わぬパワーを感じる一皿であった。
勿論この店のお勧めは肉料理なのだろうが、なにせ初めてなので色んなのを食べてみたい。肉を中心に野菜料理も頼む事にした。これはその最初の一皿で、色々な豆のラグー。春らしい彩りだ。ラグーといってもガッツリ煮込んだ濃厚なものではなく、前述のフォカッチャで感じたパワフルさとは打って変わってあっさり穏やかな仕上がり。しかしそこはそれ、極めて荒く砕いたパルミジャーノがこの店らしさを表してる。シンプルだけどコントラスト際立つなかなかの一品。ただし想像以上に一皿の物量感は無い。それに味付けも話ほどパンチはない。むしろ上品といっていいかも。これなら4人で10皿は行ける。
続いて、冒頭に述べたレシピ本の名前を冠したモツ・キュイジーヌという名の一皿。『6』と書いてあったのでシリーズ第六弾なのだろう。ハツを初め色々な内臓を煮込んでソースに仕立ててショートパスタ(Cannelliniやね)に絡めてある。うむ、あのレシピ本を参考にして俺も色々とパスタソースに応用してみたけど、あながち間違っていなかったと言う事が確認出来てよかった。しかし、酢豚のパイナップル的な扱いでバナナを仕込むアイディアは秀逸だなぁ。スパイスも生きてるし、流石という感じ。
この日唯一の魚介類w。小ぶりのヤリイカをグリルしたもの。ソースはオリーブペーストだ。これはまぁまぁ。というか、他の皿に比べて明らかにポーションが小さい....海の家で出てくるイカの丸焼きのごとき豪快さを期待してたので多少拍子抜け。本当にこの店は肉以外に興味ないんだなぁw。
今までのは一応前菜という扱いなのだが、これは本日一皿目のメイン料理。岩手短角牛ハラミのステーキ。脂に頼らない赤身本来の旨味が堪能出来る牛のハラミということで期待していたが、それに違わぬいい焼き加減。これくらい外と中のコントラストが付いていた方が楽しめる。ハラミ独特のクセも満喫出来るし、味の方は言う事無いのだが、これを世間では豪快な盛りというのか? 至って普通のポーションだと思うが。どうも他の連中のこの店の紹介とのギャップが気になる。まぁ、単に俺の感覚が壊れてるだけかもしれないがw。
Empanadaという、いわば南米のホットサンドのような料理。具のメイン素材はイベリコ豚のほほ肉。本来はトルティーヤで包んであげたものだと思うが、ヨーロッパではこういう風にアレンジされて出されているのか、この店独自の解釈なのかは良く分からない。手前のアヒーにあたるソースがパンチがあってなかなかに刺激的な味である。
本日のMVP。個人的にはこのスモーク大腸のアンドゥイユがこの日一番のお気に入りでした。パッと見なんだか良く分からない(シナモンロールではありません)と思うが、これは下処理して巻いた大腸をスモーク(&グリル?)したもの。いわゆる腸詰めでは無くこういう風にシンプルかつ大胆にアレンジされると、『なるほどこういう魅力を持つ店か』と良く理解出来る。大腸ならではの濃厚な旨味と上手い事臭みを打ち消す程よいスモーク臭、外のカリカリと中のジュワッのコントラスト。シンプルなのにとても奥行きを感じる一皿。付け合わせのマッシュポテトとの相性もいい。是非とも真似したい逸品。
これも短角牛の、特上(短角の中でも特上という意味か?大きさからして根元を使ってるという意味では無さそう)タンのグリル。ズッキーニやパプリカの入ったラタトゥイユがたっぷりかかってる。これもポーション的に全く驚かないが、流石に焼き加減は絶妙。そして部位特有のクセをそのまま生かす味付けも大変好み。タンは、蕩ける煮込みも捨てがたいが、しっかり噛み締めて味わうグリルも美味い。何しても魅力的な素材である事を再認識。
仔羊スネ肉のコンフィ。塩漬けに時間をかけているのか、肉スペシャリストの面目躍如たる熟成感たっぷりの、これぞコンフィという味わい。しかし塩抜きがしっかりしているのだろう、塩加減は意外に上品。これもやはり仔羊のクセをちゃんと出してあって好みだなぁ。しかしこの辺の料理が出てくる段階になっても、事前の評判ほどのパンチも豪快さもそれほど感じない。いたってまともな美味しいビストロという感じである。
ここまでで前菜4皿、メイン4皿食べたがまだ全然足りないw。もう豪快さとかインパクトとかを求める姿勢はやめにしてw、素直に美味しいカジュアルフレンチの店にきたというつもりで、上品にwもう一皿ずつ注文して〆る事にした。まずはホワイトアスパラ。これは見た目以上にパンチのあるビネガーの効いた濃いめの味付けで、印象に残る味わい。ただし、春のホワイトアスパラだけあって素材の味そのものは甘く美味しいが、素材とソースの馴染み具合は少し疑問。シンプルにすりおろしたペコリーノと岩塩だけでもいい気がする。ホワイトアスパラと乳製品は合うし。
もう一つは岩手無菌豚シシリアンソルト。シチリアの岩塩のみでグリルしたということか。レンズ豆の煮込みがソースとして付け合わされている。最後に頼んだこれが一番イメージ通りの一皿だった。ポーションも大きいし、塩もしっかり効かせてあってパンチがある。無菌豚の脂の甘みといいハーモニーを奏でていた。
全体に、ガツンを期待したところ少々肩すかし気味の内容だったゆえ、普通にデザートも頼む。俺はエスプレッソのソルベとマスカルポーネクリームのパルフェ。エスプレッソのソルベがなかなか濃厚で美味しいが、総じてそれほどインパクトのある味ではない。まぁデザートにインパクトと言われてもねぇw。
対して相方の頼んだタルトは見た目以上に印象に残る味。がっつり詰まったベリーと酸味の強いソースでなんとも男気溢れるデザートw。俺はこちらの方が好きだな。
食後の感想を述べるとするなら、開店当時のこの店を訪れていないのでなんともいえないが、言われる程ポーションも味付けもセンセーショナルではなく、極めて真っ当なレベルの普通に美味しいビストロであるという事だ。しかし、どうも今回は事前の情報に惑わされすぎたか、先入観に捕われてしまって素直に楽しむ事が出来なかった。これは完全に俺の方の問題で、本来もっとフラットな気持ちで臨むべきものであるにも関わらずそれが出来なかった。これは俺にとっては最も恥ずべき事だ。冷静に振り返れば、それぞれにきちんと仕事がなされていて、ほとんどが十分楽しめる皿ばかりだったのであるが、それに見合った食後の満足感が得られなかったのは、俺が妙な期待をしすぎた所為だ。それも、赤の他人の玉石混合のレビューの類いを色々と読んでの事。不覚と言うよりほか無い。
常々思っている事だが、食(に限った事ではないが)を楽しむにあたって、振る舞う側は勿論、振る舞われる側にも想像力は必要である。作り手のセンスやスキルが重要なのと同様に、受け手にもセンスやスキルのある人程それを楽しむ事が出来る。作り手の創意を100%楽しむには、楽しむ側にもそれ相応の楽しむ力がなければ、受け取りきれず取りこぼすだけだ。どちらが欠けても素晴らしい場というものは出来ない。
俺の知る限り、世の自称グルメの批判的なだけのレポートの多くは、その力の欠如を単に世間にひけらかしてるだけのものが多い(そうでないものもたまにはある)。俺も他人の事を言えた義理では全くないが、批判的か好意的かにかかわらず、俺が食に対して常日頃どんな楽しみ方をして、どういう部分に魅力を感じているのかが分かるようなレポートを書くように心がけてる。そして出来れば、読み手に対して『ただ食うというだけの行為でも、こんな楽しみ方が出来るよ』というような提案のようなものが出来ればとも思っている。そのためには、どんな店でもまず気持ちをニュートラルに、その店にまつわるあらゆる雑音を排して臨まなければならない。そうでないと自分の気持ちにストレートに響かないから。話はそれからである。そういう意味で、次回こそまっさらの気持ちで臨みたいと思っている。
Comments
おいしいですよねー。
じびえもよかった記憶があります。
Commenter: g | 2007年04月16日 20:20
G( RINA?)さん:
ども。ジビエ、いいだろうなぁ。というかジビエでこそ本領発揮してくれる店なんでしょうね、あの肉の扱いっぷりを見ると。次回はその辺の時期狙って行ってみますー。
しかし燻製大腸は本当に美味かったなぁー。
Commenter: pasta-man | 2007年04月17日 04:49
時期によって、違うんですね。そりゃそうですよね。
猪と栗って組み合わせのお皿がすごーく記憶にあって。パスタマンさんのパスタにあってもおかしくなさそう…♪
Commenter: g | 2007年04月19日 14:03