パスタマン 蘇州を食らう〜4日目夕食〜
◆平江客棧
とうとう、長かった上海〜蘇州食い倒れツアーも最後の夜(飯)を迎えようとしている。まずは、最後の夜を迎える宿として、それに相応しい魅力を備えたホテル、平江客淺にチェックインして一休み。このホテル、歴史ある豪商の邸宅を改造して作られただけあって、一歩敷地内に入ると、まるで明清時代の富豪にでもなったかのような気分を味わえる。ここもやはりYの勧めによって選んだのだが、上海を離れ蘇州あたりまで来ても、こういうコンセプチュアルでしかもそれが偽物臭くない、品位を感じさせる施設があるという事に少なからず驚いた。まぁ日本でも得てしてこういう光る宿は都会には無かったりするが。なにしろ、これなら食事も期待出来るかもしれないが、裏切られるとしても、この雰囲気が味わえるだけでも充分お勧め出来る宿である。ちなみに上海で常宿していた老錦江飯店が五つ星でここが準四つ星だそうだが、次来る時にどちらにもう一度泊まりたいかと言えば、俺は間違いなく平江客棧だ。やはりミシュラン同様、権威の定めた星なんぞクソの役にも立たんw。
◆松鶴楼@山塘街
あまりに居心地が良いのでまったりしているだけですぐ夜になってしまった。いよいよ最後の晩餐にして、蘇州唯一のディナーの時間だ。最後の晩餐に選んだ店は、ざっと200年以上の歴史を誇る、蘇州一有名と言っても過言ではない名店、松鶴楼である。ズバリ、蘇州にはこの店目当てにやって来た、というよりこの店に来る為だけにわざわざ蘇州を旅程に組み入れたと言っても過言ではない。なにせこの店は、俺が数ある中国名菜の中でも特に好きな松鼠桂魚を発明した店なのだ。以前深圳で食べて一発で気に入ってしまった(別に佇まいが自分の髪型と同じだからではない)ので、これは本場で食べないといかん、本物を食べることこそ我が使命(大げさ)と思い立ったのだ。店の周りは『これぞ中国のヴェネチア』と言わんばかりの、古い町並みと水路が美しい、実に風向明媚な場所であるが、そんなものは後回しだw。今回も我々二人とガイドのCのみ(運転手は相変わらず異常なテレを見せて来てくれない...)の寂しい面子での食事だが、それに反し料理内容は華やか。最初に言ってしまうが、間違いなくこの旅一番の食事であった。
まずは干しエビのエキスがたっぷり染み込んだ謎の青菜。特筆すべき味ではないが、この店の安心感は十分に感じられるバランスの良さ。アク抜き等がしっかりなされているようで、クセが無さ過ぎて逆に中国野菜っぽい個性を感じられず、その辺は少し残念かな。とはいえ、一品目としてはこれ以上無い一皿だ。
続いて鴨。冷製です。いかにも蘇州といった甘みの効いたあんかけとともに食す。甘ったるい料理は基本的に好きではないが、蘇州の甘さは好きになれそうだ。しつこさもべたつきもなく、とても食べやすい。むしろ鴨の旨味を良く引き出していて、甘みに対しての偏見を捨てるいい機会になりそうだ。鴨自体の味わいも、必要充分な仕事がなされていて申し分ない。
細身の筍をアッサリとした味付けで蒸しただけの至ってシンプルな料理。これがとても美味しい。旨味が濃く、香ばしさ、歯ごたえともに抜群。蘇州の料理は、この店で食べる限り、これに限らず素材重視のシンプルな料理が多いようだが、ちゃんとそれぞれの素材らしさが出ていて好感が持てる。
そしてこれが前半最も印象に残った皿。というより多分今年の年間ベストにも入ってくるだろう一品。名前は忘れた(湖の米とか言ったかな?)が独特の食感の豆と、プリプリかつアッサリした味わいの小海老を、これも非常にアッサリとした味付けで炒めたもの。最高に美味い。とにかく豆の食感が初めて体験する味わい。銀杏をよりモチモチさせて弾力を強くしたような、口の中で粘りながら弾ける感覚がとても楽しい。豆の味自体も滋味深く、淡水海老ならではの仄かな香りと旨味に絶妙にマッチしている。
そしていよいよ真打ち登場。これが本場の松鼠桂魚である。流石に見た目からして風格漂う佇まい。深圳で見たものより仕事は雑に見えるが、だからこそなのか、やたらと威厳を感じる。そして見た目に違わぬ味も負けず劣らず素晴らしい。クセがなく淡白でホックリとした食感の白身にまとった、カリッと香ばしい衣、そして甘みの強い甘酢あんかけのしっとりとしたトロ味が、コントラストの強い両者を上手くまとめあげる。たまらんです。深圳で食べたものよりもそれぞれの食感の違いが明確にあり、食べ進むうちに飽きて単調になりがちなところを、飽きさせずにグイグイ食わせてくれる。過剰な期待を裏切らない極上の一皿であった。
前二皿で興奮しすぎたので、落ち着け、俺といわんばかりに春巻きを。まさに箸休め的な安心感をもたらす味。今の俺に最も必要な味だ。日本で食べるものとそれほど際立った違いは無いが、海老を初めさまざまな旨味がしっかり効いていて、穏やかながらもそこははっきりと主張する。揚げ具合も深過ぎず、色合い食感ともにパーフェクト。
流れは、豆苗の炒め物でさらにマッタリモードに。こちらは醤油ベースの味付けで甘みは無い。好みで言えばもう少しシャッキリ感を残したいところだが、豆苗独特のエグ味が出てしまうのでそこは好みの分かれるところだ。俺は豆苗は大好き(しばしばパスタでも使う)なのでクセが残ってるくらいの方が好きだ。それでも、日本のものより味が濃く、豆苗らしさは充分堪能出来る。
先ほどの盛り上がりもはるかかなた、最早気分は縁側でひなたぼっこに等しい。これは人気メニューらしい、ジュンサイのスープ。非常に穏やかかつ滋味深い味で、人気なのもなるほど頷ける。派手さは無いが、野菜由来の穏やかな旨味があとからじんわりと広がってきてなかなかにクセになる味わい。やはり何処に行っても中国はスープに始まりスープに終わるなぁ。
いよいよ〆。忘れちゃいけない蘇州麺だ。翌日も、文字通り最後の食事として食べる事になるのだが、日本の拉麺屋も大いに参考にすべき繊細かつ奥行きのある拉麺がここにある。麺は鹹水や繋ぎを殆ど感じない、素朴そのもので主張はしてこないが、胃にスッと収まる感じが心地よい。それに輪をかけて穏やかなスープも、余計な旨味を排した味わいで双方ピッタリとマッチしている。かといって印象に残らない味ではないあたりが素晴らしい。唯一の具である高菜のようなザーサイのような野菜も、見た目とは違い繊細な味でいいアクセントになっている。素朴で地味な印象の一品だが、これで最後の晩餐を〆られたのはとても喜ばしい事だ。
長かったツアー最後の夕食とあって、食べてる最中から何やら感慨深いものがあったが、色々と印象深い食事が多かったこの旅のハイライトに相応しい説得力と興奮を与えてくれた。あいかわらず三人で食ったとは思えない数の皿が並んでいたが、味付けも脂っ気も全体に穏やかなおかげで翌日以降に残す事無く(勿論この時点ではあり得ないくらい腹が突き出していたが)、まさに快食と呼ぶに相応しいディナーであった。元はと言えば松鼠桂魚だけを目当てにこんなところまでやってきたのだが、ふたを開けてみれば、どれもシンプルながら満足度の高い料理ばかりで、結果的にはこの旅で最も印象深い食事となった。特に松鼠桂魚の前に出てきた豆(?)に出会えたのは大きな収穫だ。名前を忘れたので詳細不明だが、もしどなたかご存知であれば是非情報を頂きたい。日本で食べられるかどうかは分からないが、無ければまた蘇州にいくまで!w。それくらい俺にとっては印象深い味でした。
◆山塘街
折角なので、腹ごなしもかねて後回しにしていた山塘街を散歩してみた。日本で言えば金沢か倉敷か、昔ながらの景観を残しながらも程よく保存&リファインを施してあり、川沿いの町並み全体がテーマパーク的な装いとなっている。整備しすぎ(現在も議論の的になってるらしい)て若干嘘くさい感じも無くはないが、ライトアップも少し過剰ながらなかなか美しく、少なくとも、水辺再開発という意味ではお台場やら桜木町よりはよほど品がいい。遊覧船もあって、それこそヴェネチアのように川から街を眺める事も出来るが、この満腹感ではちょっとした揺れで容易にリバース出来そうだったので遠慮した。観光より食が勝る旅とはこういうものだ....。
ともあれ、長かったこの旅(つーかこのレポート…)もいよいよ終わりが近づいてきた。残すはあと一食だ(そのカウントの仕方もどうかと思うが)。夜も夜で雰囲気の良い宿に戻り、それぞれに印象深い様々な食事を走馬灯のように脳内で噛み締めるように、ゆっくりと床についた。
Comments
お久しぶりです
以前『とんかつ北品川へ行こう!』ではお世話になりました
覚えてないかもですが…
そのエビ料理は清炒蝦仁じゃないでしょうか?
剥いた淡水エビの炒めとのことですので…もう少し見慣れたエビっぽい見た目だった気もしますけど(;´Д`)
でもこれ見ると合ってる気がしますhttp://www.explore.ne.jp/articles/haochi/hao04.html
この前仕事ですが私も中国に少しだけ行きましたけど、どれも全体的に山椒がキツくてちょっとつらかったです…
店のチョイスが悪かっただけだと思いますが…
Commenter: おひねり
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2007年11月28日 02:14
どうもご無沙汰してます。
>そのエビ料理は清炒蝦仁じゃないでしょうか?
いや、それじゃないんですな。海老のみではなく豆が入ってまして、海老よりむしろそれが絶品だったのです。
山椒がキツいということは、四川料理の店にでも行かれたのですか? 中国料理と言っても色々ありますから、ハズレを掴む事も多いですよね。俺は幸い、信頼出来る現地の友人のおかげもあって、ほぼハズレなく楽しめましたが。
次は当たりだといいですな。やっぱ中国の食は凄いですよ。
Commenter: pasta-man
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2007年11月28日 06:11