'07『中部3県食い倒れ紀行』その3〜2日目の昼食
どんなにずっと舌に余韻を残しておきたい食事の後でも、いつかはそれを上書きしてしまわなければならない。何故なら人間は腹が減るからw。いつも、残しておきたい気持ちと次の美味へたどり着きたい欲求とが戦っている。勿論、どんどん腹が減ってくれなければ、昨日より美味しいかもしれない明日の食事にありつく事は出来ないのだけど、それにしても俺の場合はそれが早過ぎる....因果な胃袋である。
朝っぱらからそんな事を考えつつ、今日も食事優先の1日の始まりである。まずは車で岐阜から一宮に移動し、JRの駅にほど近い田中屋の若旦那お勧めの天ぷら屋に行ってみた....ものの、日曜なのに休み....全くそうは見えんが、ここはオフィス街か?....。仕方ないので、そのまま駅から電車に乗って名古屋→大須にでて、時間と胃袋の余裕があれば行こうと思っていたナポリピッツァの店、cesari!を訪れた。道中の大須観音では、『無事全ての食事を食いきれますように』と願った(アホ)。
◆二日目昼食:Cesari!@大須のナポリピッツァ
今まで東京近郊のナポリピッツァの店には随分行ったが、この店の(入る前の)第一印象は、今までとは全く違うものになった。店に着いた瞬間相方と顔を見合わせ、最初に頭をよぎった言葉が『もしかして...失敗?』。店の内外装のテイストは(少しオモチャっぽいけど)決して悪くはなく、入り口近くにドーンと誇らしげに置かれた釜も説得力がある。並んでいる俺らへの店員の対応も、(少し慌て気味だけど)親切で好感が持てる。しかし、客層が圧倒的にチープ。首都圏の本格的なナポリピッツァの店にはあまりいない、中高生やヤンキー風の親子連れ、老夫婦が主要な客層になっている。言っちゃ悪いが、場末のファミレスかと思ったよ。
これには訳があった。昼は、この手の店には珍しく¥950(しかもお子様料金有り)でランチバイキングをやっていたのだ。勿論ピッツアも(ラウンドサービスだが)食べ放題。う〜ん、真のナポリピッツァ協会から昨年認定を受けたばかりということで大層期待していたのだが、こんなサービスやってるようじゃなぁ....ピッツァは当然素材を安いもの(ブッファラなんて当然使ってないだろう)に変えてるだろうし、この客層も雰囲気も川の流れのごとしだな。ああ、そういえばここは名古屋だった。確か名古屋人は食べ放題好きと言ってたなぁ....ハァ....。
とにかく、外から伺う店内は、中高生や子供の大声とかでとても落ち着かないので、『(俺らバイキングには興味ないから、)通常メニューで(ちゃんとしたナポリ)ピッツァだけ食べさせてもらえません?』と小声で告げると、店員の顔が少し明るくなり、食べ放題で賑わってるピッツェリアのエリアと反対側のバールのエリアに通してくれた。こちらも客も、バイキングエリアから溢れてきた食べ放題目当ての人間ばかりであったが、向こうと違い天井が高く席間も広く静かで落ち着いてる。よかった、これで落ち着いて食える。
カウンターに陣取りしばらく客のウォッチングをしてみたが、いくらバイキングをやってるからって、まがりなりにもここはちゃんとした本格的なナポリピッツァを出す、中部地方では(協会認定店は2軒しかない。まぁ認定店が全て美味いとは言わないが)珍しい店である。少しぐらいピッツァ目当ての客がいても良さそうなもんだが、これだけの人数の客がいるのにそういう人間は(俺ら以外)一人もいない。単に名古屋という土地にまだナポリピッツァの美味さが浸透してないのか、単にこの店のピッツァのレベルが低いのか....席についてホッと一息ついたのも束の間、そんな不安に苛まれる。
まずは『ガス入りの水下さい』といって出てきたのがこのferrarelle。ここで不安の半分は払拭された。少しクセがあって好みの分かれる水だが、俺はこの少々尖った感じが嫌いではないし、何よりナポリピッツァの店で、ナポリでは定番のこの水を使ってるというのが嬉しい。オーナーの意向で仕方なくなのか、名古屋では食べ放題をやらないと生きて行けないからなのかは知らないが、少なくともこういう『わかってる』オプションも用意しているという事は、今の姿は本来のものではないという事なのだな。少しホッとした。
折角食べ放題から開放してもらったので、今回は余計なものは一切頼まずピッツァだけ。メニューをみると、サイズ(二種)を選べたり、さらにはモッツァレラのグレードまで選べたりと結構マニアック。ピッツァの種類も定番からチャレンジャブルなものまで豊富だ。値段もバイキングやってる店とは思えないほど結構強気。この頃にはもうバイキング目当ての五月蝿い客の事は忘却の彼方に去り、東京のピッツェリアにいるのとなんら変わらぬ気持ちでこの店にピッツァにのめり込んでいた。
まずは生地とモッツァレラの味を確かめたくて、ビアンカ・ノルマーレ(モッツァレラとオリーブのみ)を小さいサイズで。生地はフチが厚めでモチモチ傾向、中心の薄さとのコントラストも良い。粉の風味はそれほど強くないが好みである。モッツァレラは水牛だがクリーミーさはやや薄く淡白かな。量ももう少し多いと嬉しい。まぁこないだのダ・イーヴォのモッツァレラが神がかっていたので、その印象の所為かもしれない。総じて、この客層からは想像出来ないしっかりしたナポリピッツァである。良かった....。しかし、フロアの兄ちゃんがこのピッツァを『クアトロ・フォルマッジョです』といって持ってきたw。単に名前を間違っただけだからいいのだが、事前に『切らないで持ってきて』と言ったのに切って持ってきたのは、やはりこの混雑ゆえの混乱の所為だろうか。まぁ俺は食い物を粗末にするのは許せない質なので、作り直させずそのまま食べたが。
それなら、というので、今度は大きいサイズでマルゲリータ・ビアンカ(トマトソースじゃなくプチトマトのバージョン)と通常のマルガリータのハーフ&ハーフを頼んだら、何故かビアンカのみで来た(レシートにもちゃんとハーフ&ハーフと書いてある)....しかも、後で聞いたらこれも最初に間違って四等分してしまい、気づいて慌てて焼き直したという。どおりでこれだけ出るのが遅かったわけだ。まぁこれも同様の理由で作り直しはさせずにそのまま頂いたが、いくらパニクっているとはいえ二回は間違えないようにしようねw。バイキングに群がってる連中と違って、真剣にピッツァ食いにきてる客なんだから、少しは神経使わないと、俺はまだ良いけど、本来掴みたい名古屋の意識の高い客まで逃しちゃうよ(余計なお世話だけどw)。これも一品目同様美味かったけど、ここで本当はトマトソースの味も見たかったんだけどなぁw。
最後に、店名にもなっているチェザリ!を頼んでみた。デカい車エビを使って海老の風味が充満するリッチな1枚。これもとても美味しい。ここでもやはり、モッツァレラの量が少なくてややバランスが悪く感じられたが、濃厚だけど嫌みでない程度に海老の旨味が含まれていて、なんともクセになる味だ。今度はちゃんと切らずに持ってきたしw、終わりよければ全てよし、ということですっかり笑顔で食事を終える事が出来た。味以外のところで頑張るべき部分はあるけど、名古屋でもこのレベルのピッツアが食えると言う事が分かったのは収穫であった。なにせいつピッツァが食いたくなるが分からんからねw。
天ぷら屋の保険で用意していた店にも関わらず、色々と考えさせてくれる店であったw。食後もコーヒー(なかなか美味い)を飲みながらしばらく他の食い放題の客を見ていたが、ラウンドサービスで店員が『焼きたてのピッツァでございます』と言って持ってきたピッツァを皆が拒否している。そしてそいつらの皿にはサラダとパスタとケーキが一緒に盛られてるw。なるほど、『客(つーより土地?)に恵まれない』とはこういう事なのか。世田谷あたりにあれば、地元の人間に愛されそうな、なかなか良いピッツァを出す店なのに、なんだかあまりに可哀想過ぎて泣きたくなった。まぁ、そのレベルの低い客(と敢えて言わせてもらう)に振り回されて、ちゃんとピッツァを楽しみに来た客の注文も間違えるのだから、その辺はあまり褒められたもんじゃないが。それでももし、『名古屋の地に本格的なナポリピッツァを根付かせたい』との気概がこの店にあるのなら、食べ放題の値段と質をもうもう少し上げるとか、例えランチでももう少し敷居を高くしてみてはどうかと思う。まぁこれも所詮は外様の余計なおせっかいというものだが、数年後もう一度訪れてみて、どうなってるかが楽しみではある。何しろ、かの地でも本格的なナポリピッツァが根付かん事を祈る。頑張れ。
(続く)