'06 九州グルメツアー3日目〜『さよなら福岡、そして湯布院へ』
あまりに濃い2日間を終えて今日は中日である。初めての朝寝坊。しかも人の家。主のK君(医師)は既にご出勤(凄い人だ)。よし、今日は体を休めると同時に胃も休める....なんてハズもなく、朝起きてK君の奥方さよちゃんの入れてくれたコーヒーをひとしきりすすり、いつものように腹が減りながらも人の家ゆえ『飯〜』と叫ぶわけにもいかず挙動不審になりながら、その様子を知ってか知らずか気を利かせたさよちゃんの引率で程なくブランチに出かけた。
●丸福ラーメン@花畑
まず一発目の食事は、昨日に引き続きラーメン。(K君曰く)久留米で一番美味いラーメン、丸福である。まず伝統の久留米ラーメンを食し、翌日すぐ今一番旬なラーメンを食らう。一日で久留米ラーメンの歴史を垣間見てしまおうという欲張りな計画である。
車で行ってみると、そこはK君宅のすぐ近く。近所に一番美味いと思えるラーメン屋があるなんて、羨ましい限りである。店の前にはすでにいい匂いが漂っている。裏のパチンコ屋の駐車場に車を入れ、いざ店内へ。
テーブルに座ってみると意外に(失礼)店内は清潔でとんこつラーメンやにありがちなベタッとした空気感が無い。厨房も広々と見渡せて気持ちいい。次にテーブルの上に目を移すと、色々な調味料類が置かれる中で一番気になったのがこれ。どうやら揚げニンニクを溜まり醤油に漬けたもののようだ。熊本ラーメンのマー油のような役割を果たすものかなと思い少し舐めてみると、それはどうも違うようで、味の濃さを調整するためのもののようだ。初めて見たのでなかなかいいアイディアだなとちょっと感心。
お待ちかねのラーメン到着。高菜めしとセットで注文してみた。ラーメンの佇まいは、流石に昨日の丸星と比べると隔世の感があるというか、進化してるんだなぁといった趣でどことなく華がある。パーッとニンニクチップが散らしてあって、いかにもニンニクが効いてそうなスープだが、一口スープをすすってみると意外と強烈ではない。効いていないということではなく、調和している。旨味は強いがスッキリしていて洗練されていて、味の方も同様に何十年かの進化を感じる。麺は卵麺らしくツルツルとしていて、ポキポキしたような食感の博多とはやはり違うね。太さも少し太い。俺はやはりこの方が好きだ。全体として、流石K君が久留米一というだけあって大変美味しい。一緒に頼んだ高菜めしもラーメン屋としては出色。仄かな高菜のピリ辛とパラッとしてていい食感のご飯と良く合ってる。大満足で店を出た。ああ、今日もこの滑り出しだと暴食は止まらないんだろうなぁ....
●Pain de cuisson & かうひいや しらい
朝飯(つっても10時過ぎ)を済ませて一息つこうと向かったのは、パン屋と喫茶店。まずはパン屋のPain de Cuissonだ。相方は地方へ行くと必ず地元のパン屋に行って、勉強のため売ってるパンを、まるで壷のように鑑賞wするのだ。ハッキリ言って味の方はすでにプロ級の腕前なので、売り物のパンで興味があるのは味よりもその姿形のバリエーションなのだ。俺もパスタに関しては似たような事を思っているので良くわかる。
鑑賞っつても、勿論必ず何か買ってみてるよ。今回はコルネとレーズン、クルミの入った天然酵母のライ麦パン。電車の中でのおやつにした(ゆえ、写真ブレブレで失礼)。俺はコルネを頂いたが、クリームも生地も素朴な味わいでなかなかに美味しい。この値段で良く出せるなぁという味であった。写真のように外観もシャレてるし、パン屋では珍しくケーキ屋のような対面販売でこれも面白い。さぞ地元で人気の店なんだろう。
そしてさよちゃん行きつけという、これまた地元で人気のありそうな喫茶店、かうひいや しらいに連れて行ってもらった。居心地のいい店内には焙煎中のコーヒーの良い香りが充満していて、爆食中の俺の気分を和らげる(が胃は和らげない)。ここで頼んだのはストロベリーチーズケーキとグラン・エ・ノワール、オレンジ風味のクリームの乗った濃厚な味のアイスコーヒーだ。手作りのケーキもホッとする味わいで美味しいが、やはりコーヒーが格別に美味い。リッチという表現が一番合うかな。近くにあったら漫画でも読みに用も無く通ってしまうであろう。
ここでは、今回のツアーで唯一『モノ』のお土産を買った。何故か異様に惹かれてしまった手作りの携帯ストラップ。俺は鰹節と呼んでいるw。ちなみに相方は、謎の一つ目星人を買っていた。そいつもなんだか憎めない感じで、現在ウチのトイレを異星人から守っている。うちに遊びにきたら撫でて行くとご利益あるかも。
ここで、とうとう久留米とはお別れ。実はこの後K君オススメのとんかつ屋に行こうと思っていたのだがw、運悪く休み。まぁこれは流石に食い過ぎのような気もするので(一歩も間違わず食い過ぎです)、とりあえず良かったのだと思う事にする。この時点でもう『俺は住んでるのか?』と思うくらい久留米を満喫したわけで、初の遠征パスタ会を催したり、今までの旅以上に格別に名残惜しくもあるが、俺には各地で待ってる食い物(と書いて"友")がいる。後ろ髪惹かれる思いで駅に向かったのであった。あらためて、K君夫妻を初め久留米で出会った全ての人にお礼が言いたい。どうもありがとう。今後ともよろしくね。
●中央軒@鳥栖駅6番ホーム
さて、感傷に浸っていても腹は減る(俺って奴ぁ...)。さよちゃんに車で鳥栖駅まで送ってもらって、向かうは6番ホーム。といってもここで電車に乗るわけではない(乗るのは1番線だ)。何故ならここには中央軒という立ち食いうどん屋があるからだ。目当てはここのかしわうどんとかしわめし(弁当)である。駅構内には4つの中央軒があるそうだが、何故か6番ホームが一番美味いとされているらしい。少なくとも友人武藤君は強くそう主張していた。こういう都市(つーか地方)伝説的な話は嫌いではない。勿論ノッてみる。
まずはかしわうどん。その友人のソウルフードと言っても過言ではない程、学生時代彼は良く食っていたそうな。聞けば九州で最初に立ち食いうどんを開業したのがここ中央軒。そういう歴史を持っていながら、変わらずその時代の若人にごく自然に愛される立ち食いうどん。なんともいい話ではないか。そういうものを食わずして俺のグルメツアーが終われるわけが無い。
一口食うと、出汁も麺も博多の因幡うどんで知った優しさが溢れていて、同時に立ち食い特有のジャンク感もありで、『だよねぇ』の想いとともに思わず顔がほころぶ。ただしそれに甘辛く煮付けられたかしわが乗る事でより『食事感』が増していて、さらにスープ自体にも因幡の優しさとはまた違った芯を感じる。これは鶏のガラやかしわそのものから出たエキスによるものだろう。いろいろな意味で『うれしい食い物』というのが俺の食後の感想である。それは渡辺篤史@建物探訪における『嬉しいなぁ〜』と同じ意味合いと思って頂きたい。
そしてかしわめし。これはこの後で乗る『ゆふいんの森号』でおやつにw頂いたのだが、これも本当に美味しい。特に、鶏のスープを強く感じるご飯が秀逸。これが680円で食えるのだから嬉しい事この上ない。ちなみにこれにシュウマイが付いた焼麦弁当(700円)というのもあるのだが、20円アップでシュウマイ付きとはどういう計算なのだ? こっちにすれば良かったと強く後悔。なぜなら、このシュウマイも有名なものらしく、『東の横浜、西の鳥栖』と謳われる程のものなのだそう。そうと聞いては黙っていられない。横浜で育った俺にとって、崎陽軒のシュウマイ(と鯵の押し寿司)は、武藤君にとっての中央軒のソレに勝るとも劣らないソウルフードなのだ。もう少し詳しく調べておけば、かしわめしを味わえてさらに東西シュウマイ食い比べまで出来たというのに....次は絶対やってやろうと強く誓って鳥栖を後にした。
●湯布院へ
一旦久留米駅に戻って『ゆふいんの森号』に乗り込み、ついに福岡を離れて大分は湯布院へ。相変わらず食ってはいるが、一仕事終えた後の所為か時間はまったり流れてて気持ちにも余裕があり、実にピースフルな一日である。全日程を通してミッチリ予定を組み込んでいても、こうした緩急のリズムは自ずとつくものだ。相変わらずセコセコ動いてはいても格好の『休日』になっている。
その休日感を加速させるかのように、このゆふいんの森号のなんと居心地のいい事か。外観は、もともと九州の車両はどれも美しく完成度が高いのだが、中でもひと際美しくまとめられ、車内もプライウッドのテーブルやフローリングでウッディに統一されている。車窓に広がる景色は、延々と深い森を駆け抜けて行くかのように緑が続き、車内では綺麗なお姉さんがわざわざパネルを使ってやけに丁寧に観光案内してくれて、じじいどもの『あわよくば心』をアゲアゲに煽って大はしゃぎさせていて(うるせーけど)実に微笑ましい。乗っているだけでこれだけ癒される電車も珍しいだろう。湯布院に行く際には、タイミングが合えば是非乗ってみる事を勧める。
久留米を出て1時間半後に湯布院到着。時間は16時半。天気はそれほどよく無いが、ゆったり流れる時間のおかげで気分も晴れている。ここでの最初の目的地は、駅からまっすぐ伸びる目抜き通りを歩いて5分ほどのところにある。
●B-SpeakのPロール@湯布院
噂によるとここのロールケーキは『買うのに1時間は並ぶ』とか『予約の電話も繋がりにくい』とか、とにかく入手するだけで大変だという。常々『そういう逸話の大きさと味そのものは必ずしも比例しない』と知っているのでそれ自体は別にどうとも思わないのだが、会社の後輩(大分出身)が強く勧めていたので、出発前に予約して食ってみる事にした。なるほど、確かに電話は繋がりにくかった。小一時間粘ってようやく2本予約する事が出来たので、宿に行く前にピックアップして風呂上がりに頂こうという魂胆である。
2本購入、1本は鹿児島へのお土産ということにしようと思っていたのだが、なんと賞味期限は当日まで、おまけに味が落ちるから発送も出来ないという。う〜ん、これは困った。流石に二本ともその日に消化するのは難しい。しかしまぁ面倒な事は考えず、とりあえずどれほどのものなのか味見してみる事に・・・・したのだが、ここは温泉宿。当然のごとく部屋にはナイフもフォークも皿もない。多分仲居に言えば持ってきてくれるだろうが、すでに期待値MAX状態で待っていられない。よって、曰く付きのレアロールケーキを食うのには適切ではないかもしれんがこうやって食う事にした。
おお、確かに美味い! まず卵の濃厚さがガーッと前面に来て、後を追うように発酵バターの仄かに香ばしい香りが鼻を抜ける。甘さは控えめというより上品で上質な甘さという感じ。生地の方は、シフォンのように軽いのだけど、かといってしっかりと噛み応えがありシフォンのような希薄な印象ではなく存在感抜群。ちゃんと焼けた表面と中のコントラストがある。そして食後余計な味は一切残らない。なるほど材料表示を確認すると『小麦粉、バター、卵、砂糖、以上。』である。いやぁ、久々に唸る程美味いケーキ食ったなぁ。あっという間に一人で1本の8割を消化(あんな食べ方で)。
これでは当日中に食えというのも納得出来る。が、なんとしてもこの感動の片鱗だけでも届けたいと思い、味が落ちるのを承知で鹿児島まで持って行く事にした。食べさせられるのは購入から24時間以上後だが致し方ない。
●柚富の郷 彩岳館@湯布院
話は前後するが、ロールケーキをピックアップしてから駅に戻り、送迎バスにで宿へ向かう。今日の宿は柚富の郷 彩岳館。今回のツアーはJTBのパックを利用して(JRの全九州フリーキップが使いたかったので。特急指定席までフリーで取れるのはJRでもやってない)計画を立てたので、必然的にそのパックの中で選べる宿に限られる。その中から、その時点で予約が可能で良さそうな宿を選んだのだ。したがってそれほど思い入れがあるわけではない。が、部屋の程よい広さと雰囲気、窓から臨める雄大な由布岳、貸し切り温泉(二つある。双方とても良かった)もあるし各施設への動線もよく考えられてる。ウエルカム・スィーツのゆず餅と抹茶も美味しいし、昼と夜で喫茶室のテーブルの花を生けかえたりといった細やかな気配りも感じられて、結果論だがなかなかに良い宿のようだ。これは食事も期待出来るというもの。前述のPロールをたいらげw、九州らしく必要以上にツルツルになる気持ちのよい温泉に入り、気分も良く食卓へ。
まずは先付けから。全体に上品な味付けで口開けとしてはかなり良い印象。特に百合根の絶妙な歯応えの残し具合と稚鮎の薄味加減が好感触。
お次はタコの酢の物。もみじおろしで頂く。これも良い加減の半生具合に仕上げられたタコの食感が心地いいなかなかの一品である。
次は生麩とフキ、エリンギを薄味の出汁で煮ふくめて上に豆(多分枝豆)を裏ごししたソースをかけた小鉢。このソースが滑らかでとても良い。上に乗ってる松の実も実に良いアクセントになってる。
どんどんいく。これはお造り(見りゃ分かる)。鯛、カンパチ、平目、ホタテ、イカがバランス良く盛り込まれている。イカは皮目に包丁を入れて軽く炙ってあるね。全体に丁寧な仕事を感じる。
この辺から段々と板前のセンスが光ってくる。これはジュンサイの入った出汁に浮かべたかわり豆腐。濃厚で美味しい豆腐の上には柚子胡椒(大分だものね)が乗り、中には梅肉が仕込まれている。双方実に効果的で、夏らしい爽やかな一品。
うなぎの笹蒸し寿司。これもとても美味しい。もっちりした食感で全体に味薄めな上に旨味が染みていて実に俺好みの味付け。
湯葉のように歯触りの良いがんもどき。豆腐で既に分かってはいたが、これも実に味わい深い。小さなオクラとベビーコーンも何故か彩りとともに非常に良くマッチしている。
俺的には本日のハイライト、椀もの。左の半透明の矩形のものはカボチャを裏ごしして葛で固めたもの。右はウニを練り込んだ衣を纏った真鯛のしんじょ。これは唸った。アイディアも秀逸だし、モチモチ対フワフワの食感の対比も実に面白い。なんて事無い素材使いでもアイディア次第でここまで楽しい一皿になる。会席にも関わらずあまりの美味しさにおかわりしてしまった。
メインの豊後牛の焼き物。正直、肉自体は並のちょい上という感じだけど、流石に大分だけあってどんこは小振りながら味が濃くて実に美味い。肉の方がむしろ脇役という感じだ。
食事の〆は揚げ茄子。揚げ具合が絶妙で、茄子自体の甘味が生きていて非常に美味い。上に乗る黒い糸状のものは、茄子の皮を細切りにして揚げたものだ。同じ素材を同じ調理法で甘味とほろ苦さのメリハリを作る実に心憎いアイディア。ここの板さん本当にセンスあるなぁ。
ご飯を頂いた後にドルチェ。マンゴーとココナッツの二色の杏仁豆腐とフルーツ。さっぱりフィニッシュ。着地も綺麗に決まった。
いやぁ、全然期待してなかったのもあるけど、素材に頼らず技とアイディアでここまで楽しめる食事にありつけるとは存外の幸せであった。大体豪華or名物食材を前面に出して客の気を引く宿の飯には駄目なのが多いというのが持論だが、ここはそういうスタイルではないし、あらためて飯で決める温泉宿の選び方に確信を得た。飯を最重要視してるからこそ、こういう宿を選ばないといかんね。
大変満足してその後はまったりとテレビをダラ見しながら布団の中でフェードアウト。今日もまた、昨日、一昨日に勝るとも劣らない幸せな一日であった。明日はいよいよ鹿児島で第二回のパスタ会だ。ゆっくり寝て英気を養わなくてはね。