ゆるり@池尻大橋
この店については、前にも2005bestで触れたけども、決して万人が100%満足する店とは言わない。料理は勿論秀逸なんだが、食材(主に魚)の知識がどの程度かによって楽しめる度合いもまた変化するし、今のところ客層に常連が多い感じなので、その雰囲気に馴染めるかどうか、また親父の『美味いものが好きで、美味いものを食わせたい』という気持ちから出る、良い意味での熱苦しさwを楽しめるかにもよるからだ。それでもあえてこの店の事を書くのは、やはり俺の経験上『凄い店』としか言いようが無いから。今回もやはり『ありえない...』という言葉を連発することになった。そこで昨日食ったコースの全てをここに紹介することで、この店の、いやここの親父の食材への偏愛っぷりが皆さんに伝われば幸いだ。
この店の先付けはこの皿で供される。今回はタンのスモークとモロキュウとサザエ。魚介、野菜、肉の3つを、いずれもしつこさを除いた調理法で出す事で、これから始まる怒濤の素材天国(地獄)の序章としているのだ。
いきなりこれだ。宮城沖でとれたミンク(クジラ)のタンとたたき。クジラのタンの脂って旨味が上品で本当に美味い。一方タタキも、ねっとりした食感とほのかな塩味、そして臭み取りにほんのり効かせた山椒が絶妙。『いきなり飛ばし過ぎなんじゃないの?』と思わず言ってしまったが、親父はニヤッとするだけ。なるほど、全然序の口だった事が後で分かったよ。
続いて蝦蛄の爪をわさびだけで。一匹につき2個しか取れないレアものである。そのサイズから推測するに、結構な大きさの蝦蛄のものだ。味は身そのものよりも淡白で上品。2品目でこれかよ....これでも飛ばしてないと言い張る親父。うーむ、いくら誕生日会とはいえ、いつも以上の気合いだ。
3品目、白海老のお造りである。おお! 昨年冬富山に行ったときに、時期外れで冷凍ものしか食えなかったのを知ってるのか?この親父.....っておいちょっと待て、白海老の旬は春から夏だろうが! なんで今の時期にこんな美味い活き白海老がこんなところにあるんだ! 思わず『これ、富山産だよね?』と聞くと、やはりニヤリと笑う。この親父、どうみても俺に勝負を挑んでるとしか思えないw。なんでこんなレア食材が次から次へと.....おかしいよ、絶対おかしい。この親父、絶対裏の密猟シンジケートとか操ってやがるな.....って、こんな言い訳が出る時点で、すでに俺の方が負け気味です。
ここでようやく普通に楽しめる一皿、手羽の煮付けが....正直ほっとしたw。しかし何作らしても美味いなぁ。
続いて片栗粉の衣を纏った鴨肉を芹とヨモギ麩と一緒にあっさり炊いたもの。『今日の鴨はどうしても出したかったんだよねぇ』との言葉通り、ソフトでしみじみ美味い肉である。前半立て続けに意表をつく魚介の小鉢でドギモを抜いておいて、この辺で地に足着いた味を肉で出してくる....親父、DJとしても秀逸だ。
と、鴨でホッとしてたらいきなりこれだ。幻の魚鮭児の兜焼き。やっぱり前の肉2品の説得力はこれへの落差作りかよ。知床の漁師ならいざしらず、こんなとこで鮭児を兜焼きで食ってる奴は俺らだけだろうなぁ。そのレア度もさることながら、これがまた死ぬ程美味い。マグロや寒ブリの兜、勿論サケの兜とも一線を画す濃厚な味。脂/ゼラチン質が尋常じゃないトロトロの目の周り付近の肉も凄いが、皮が別次元の旨味を含んでいて、噛むのをなかなかやめられず。しゃぶり過ぎて、食い終わった後は全く原型とどめて無かったのは言うまでもない。
半分以上食い終わって写真を撮ってない事に気づき、慌てて撮影したため殆ど残ってないが、海ぶどうである。当然フレッシュ。だからなんで今の時期にこんな海ぶどうが手に入るんだっつーの! だんだんここが不思議の国に思えてきた。店を出て振り返るとそこはただの空き地だった、なんて妄想の一つも浮かぼうというもの。
もうどれがメイン料理か分かりません。的矢のいつもの通り超クリーミーな牡蛎がまたもや登場。甘く濃厚なんだけどさっぱりした後味がその上等さを物語ってる。その癖の無さは一滴のレモン汁すらいらない。
この親父が勝負を仕掛けてるのは十分分かったし、今の時点でもうこっちの完封負けであるのは明白なんだが、にもかかわらず一体いくつ仕掛けを用意すれば気が済むのか。親父の『見てみろ』の声にカウンターまで行ってみると、やおら出してきたのは仙鳳趾(『せんぽうし』と読む)の牡蛎。厚岸でなく仙鳳趾ってところがいかにも親父らしいというか、今日のコースの徹底ぶりを物語ってる。勿論食うのは初めて。しかも牡蛎を牡蛎に重ねてくるとは、余程自信があるんだろう。それをどーすんのかと思ってみてると....
今度はフライで出してきやがった。『ここの牡蛎はよぉ、もの凄い濃いからフライが一番だよ。ドロソースで食ってみ?』と親父が言うが早いか、一口で食らう....なんだこれ!? いやマジすげぇ。思わず相方と顔を見合わせる。いくらなんでも濃厚すぎだろう。身のしっかり感(固いのではないよ)と相まって、間延びしたところが寸分も無い。ちょっと経験し得ない感動がわき上がる。こんな牡蛎フライ、今までの人生で食った事ねぇよ。ああ、grv氏に食わせてぇ....
次がこれ。一見何の変哲も無い穴子の天ぷらに見えるがさにあらず。これは穴子の中でも小型の『めそ』と呼ばれるものだ。これがまた絶品。甘みもしっとり感も、大型のそれとは比べ物にならない。うなぎも穴子も大型の方が偉いと思われがちだが、それは全然違うのだ。めそは大変美味いが、小さすぎて捌くのに技術と手間がかかり、そこらへんの店ではやりたくても出来ない。まず前提として『めその天ぷらは絶品』という知識があって、それを捌く技術があって、なおかつ客に美味いものを食わせるために手間を惜しまないという気持ちがある店で初めて食える代物なのだ。
今更言っててバカバカしくなるが、真打ち登場。まぁ今日はどれが真打ちでももういいやw。手前のが鮭児のお造りだ。うー、とろける....本当に今日のこのラインナップはあり得ねぇ。捨て曲がないどころか、ピーク時の一番盛り上がるキラーチューンを延々聞かされてる感じ(にもかかわらず気づくと緩急の流れがちゃんと出来てる)。その証拠に、鮭児は勿論のこと、後ろのシマアジがまた凄かった。天然ものは今や高級魚。そう日常的に食えるものではない。アジに比べて淡白と言われるが、全然そんな事は無い。やはりどう考えてもこの店はおかしい。旬も何もあったもんじゃない。時期も場所も、常識を逸脱し過ぎてる。
一応鮭児のアップ写真も。ちょっと力入れると箸で切れてしまうのでなかなか難しい。
もはや何が出ても驚かない。ハタのしゃぶしゃぶだ。ハタハタではないw。勿論クエでもない。これがもう....なんど同じことを言えば気が済むのだ。美味い、兎に角美味い! もうそれだけ! ハイハイ、負けました負けましたよ!(逆ギレ気味)。
このくらいのしゃぶしゃぶ具合にして食うともう....もう何度おn(ry
切り身でしゃぶしゃぶし終わったあとに出してきたこのアラも凄まじかったなぁ(放心)。特に↓
この皮ね。見ての通り既に尋常じゃない量(全部で二人分だw)のコースであるが、それでもつい食ってしまう。
このあとこの出汁で雑炊作ったらさぞかし美味いだろうなぁ、と思い、一応野菜を頼んで(やっぱ雑炊にするなら野菜の出汁も欲しいもんね)みたけど、流石に入れた野菜を半分食ってギブアップ。ご飯投入までたどり着けず。もう悔しくて(腹が苦しくてでなく)うんうん唸ってしまった。しかしここの親父も最後までハンパではない。なんとスープと具材を分けて折に入れて『これで明日家で雑炊やれ』とお土産に持たせてくれた。しかも具の方にはさっきの仙鳳趾の牡蛎と海藻(流石分かってるよなぁ)を大量に入れて....もの凄い勢いで感謝していると、『やっぱ、最後まで俺の出したものをとことん楽しんでくれるのって嬉しいじゃない?』と一言....をいをい、最後は泣かせか?....楽しませてもらったのは俺の方だというのに。
さて、この店の異常さwを示すために、この日出た食材の産地と旬の時期を分かる限り書いておこうと思う。
01:先付け(サザエ、スモークタン、モロキュウ)=不明
02:ミンククジラのタンと身のたたき=宮城沖/冬
03:シャコの爪=東京湾(?)/晩秋
04:白海老のお造り=富山/春〜夏
05:手羽の煮付け=不明
06:鴨と芹の煮物=不明
07:鮭児の兜焼き=北海道/秋
08:海ぶどうの酢の物=沖縄/春・秋
09:生牡蠣=的矢(三重)/冬
10:めそ(穴子)の天ぷら=東京湾/春〜夏(年中とれるが)
11:カキフライ=仙鳳趾(北海道)/冬
12:お造り(シマアジ)=聞くの忘れた。恐らく日本海側/夏
13:ハタのしゃぶしゃぶ=北海道/夏
14:口直しのなめこの小鉢(写真なし)=不明
どうだろう。いつ、どこで、何を食っているのか分からなくなって、ここがおとぎの国に思えても不思議ではないw。食後は親父と『密猟だろ!』『知るか!』の問答の果てに、何故か最後は親父と『密猟倶楽部』なるものを結成して、俺が名誉会長におさまる事になったw。
この店に来たのはたったの2回であるが、親父が俺にしきりに言う台詞でこんなのがある。 『こみちゃん(俺の事)もこんな店知らなきゃ良かったのになぁ。俺も色んな美味いもの知っちゃったからさぁ、つい食わせたくて出しちゃう。でも、お互い知っちゃったから仕方ないよな。』....全くである。人間美味いものの前には、出す側も出される側も無力である。ここに来てしまうと、他の店の値付けとか『旬が外れてるから』という台詞とか、全部言い訳にしか聞こえなくなる。このゆるりや、他の数少ない『正直な店』に行く時は感じないが、おいそれと他の店に行けなくなって、俺の冒険心を削いでしまうのがこの店の唯一の欠点だ。
そうそう、まだ始めて間もないこのblogを読んで、ゆるりに行ってくれた人が何人かいると聞くが(親父が大層喜んでたよ)、折角だから是非親父と仲良くなって、ここのポテンシャルを全て引き出して帰って欲しい。そうしない手は無いよ。まだまだ引き出しは沢山あるみたいだからね。なにせ貴方はこの暑苦しいレポを最後まで読めたんだからw、簡単に親父と仲良くなれるよ。
Comments
牡蠣!!
牡蠣フライ!!!!
って言うか全部美味そう...
とりあえず全て終わったら(笑)、3月にでもO氏も連れて行きたいところですね。
Commenter: grv | 2006年02月09日 10:22
いや~、凄いことになってるね。
鮭の皮好きとしてはたまらんモノがあるね。
CKが渾身のレポートを書きたくなる気もわからんでもないね。
多分オレより全然CKの方が仲良くなってるはずなんで(オレも2回行ってるんだけどねぇ・・・・)、CK主催で一回行ってみたいね。
Commenter: matsu | 2006年02月09日 11:41
grv氏:
いやほんと、この牡蠣は凄い。北品川とはまた別の方向性ではあるけど。
小振りな分、旨味と密度感をグッと上げた感じ。
是非いきましょう。
matsuやん:
そうそう、分からんでも無いでしょうw。
仲良くっつーか、皆が俺の事を色々大げさに言ってるらしく、
なんだか異様な気合いなんだよねw。いつのまにか俺料理人ってことになってるしw。
次はいつにしようかねー。まぁこの店に時期はは関係なさそうだけどw。
Commenter: pasta-man | 2006年02月09日 14:55
浮き草人生のSIOさんのリンクから飛んできました。初めまして
読んでいて頭痛してきました。
白海老もシマ鯵もめちゃくちゃうまそうだし何よりも
牡蠣が!牡蠣フライが恐ろしくうまそうです
夢に出てきそうに美味そうで(涙)うぅぅ
Commenter: okan@yukakichi | 2006年03月02日 15:37
>okan@yukakichiさん
どうも、コメントありがとうございます。SIO嬢のところからですか。彼女も毎回そそる店紹介しますよね。
是非機会があったら『ゆるり』行ってみて下さい。そんで『こみちゃんに紹介されて』と言えばそれなりに遇してくれるはずw。
今後ともこのblogをよろしくお願いします。
Commenter: pasta-man | 2006年03月03日 05:12