◆2005美味かったBest20
◆総括
今年は仏、伊、中華に特に力を入れると年初に言ってたにもかかわらず、蓋を開ければ相変わらず肉&魚の動物性タンパクがメインとなった。自分ではそんな印象は無かったのだが、こうして書き出してみると良くわかる。決してそれらの店に行ってないわけではないんだが、如何せん印象の残るところが、もはや『単なる美味い店を超えた何かを持つ店』という風に基準がシフトしてしまったため、このような結果となったと思われる。さらに今年はパスタにハマって、マニアックに自分で研究するようになってしまったため、大抵のイタリアンには感動出来なくなった。俺が作るより不味い店のいかに多い事か。来年はさらにこの傾向が強くなりそうだ。
つーことで、以下、2005年に印象に残った食体験best20の発表です。長いので読む人はそのつもりで。
●肉/モツ部門
『藤太』の特選ミスジ(養老・岐阜)
藤太に限らず、この養老という土地を訪れた事で、自分の焼肉観が確実に変わった気がする。どこのブランドでも無いのに芸術的なサシの入った、殆ど下処理の無いむき出しの素材を、ただ塩こしょうでレアに焼いて食う至福。そして恐らく日本一であろう驚異的なコストパフォーマンス。まるでファミレスのような、とても美味そうには見えない外観。ここを体験した後は、都内で高尚な講釈タレながらカッコつけて高いゼニ取ってる多くの焼肉屋の店長が皆アホに見える。
『氷見牛たなか』の特上ロース(氷見・富山)
氷見というと日本一魚の美味い港町という印象があるが、実は肉も美味いという事を嫌というほど見せつけられたという意味で、目から落ちた鱗の枚数今年No.1の店。ここもどこか『養老』を感じさせるが、肉質でいうとこちらの方がさらに品がある。逆に言えばパンチが少し弱い。いずれにしろ都内の多くの名店呼ばわりされてる店がひれ伏す肉質が堪能出来る。
『ジャンボ』のザブトン(篠崎)
先日訪れた、2005年の焼肉しめくくりの店。マイケル寂聴君の手引きにより、長年(つっても1年くらい)の夢叶いついに訪問。そしてその期待を裏切らない名店である。味付けが塩辛いのが唯一の欠点だが、それを補って余ある肉質と仕込みの妙。素材勝負の焼肉店とは一線を画した、技術で唸らせる店。
『鈴木屋』の煮込み(白金)
ここの煮込みが、今まで食った多くのモツ焼き屋の煮込みの中で今のところNo.1である。7年ほど前、俺の中では煮込みと言えば味噌という時代に『まるい』の塩ベースの煮込みを知って価値観が変わり、そして今年、この鈴木屋で完成したという感じ。ここまであっさり、かつ濃厚な煮込みはそうそうない。勿論ここは串ものも上級なのだが、これだけのために訪れても悔いは無い店である。
『宇ち多”』のモツ焼き(京成立石)
ここに行った時の衝撃といったらもう....どのメニューが美味いとか不味いとかそういう次元の問題ではない。客をも含めた店そのものが一つの価値を持つという希有な店。日本の東京という場所でなければおそらく生まれなかっただろう。この土地にこの時代に生まれて良かったとさえ思える。
●麺部門
『中華そば伊藤』の中華そば(王子神谷)
今年は驚くほどラーメンを食べなかった年であったが、その中ではダントツNo.1の店。数年前、年100食近く食ってた頃と合わせても歴代トップ10に入る。最近食って無かったのもあるが、『こんな凄いの食ったからもうラーメンはいいや』とさえ思える、ある意味俺のラーメン人生(大げさだな)に引導を渡した店。
『泉屋』の鮎ラーメン(河原町・岐阜)
一方こっちは、ラーメンとしてより麺料理として今年No.1と言って良いかもしれない。二子玉川の某店でそこそこ満足してた昨日までの自分を殺してやりたい((C)ハチミツ二郎)。あそこのラーメンを食って『こんなのが鮎とは思われたく無い』との思いから作ったという、ちょっとええ話も含め、この店の佇まいにリスペクト。ラーメンがあまりに象徴的だったので取り上げたが、ここの鮎料理は凄かった(ここは本来ラーメン屋ではなく鮎料理の店だ)。訪れたのはまだ6月だったのだが、シーズン真っただ中に行ったらもっと凄いのだろう。
『手打ちうどん吉宗』のカレーうどん(高岡・富山)
まだ記憶に新しい富山ツアーの時にランチで訪れた店。事前の調べからある程度期待はしていたが、それを遥かに上回る美味さであった。少なくとも俺の中ではNo.1のカレーうどん(ちなみにこれまでは旗の台『でら打ち』のカレーうどんだった)。デカい総合病の目の前という立地がなかなかシュールだけど、このカレーうどんを食えれば入院してもいいと思う。
●和食部門
『とんかつあさくら』の特選ロースとんかつ(滝の水・名古屋)
このあげ技術は、もう御免なさいとしか言いようが無い。とんかつという料理の特性上、老若男女全てが満足出来るとんかつって不可能だろうと思ってたけど、ここのは自信もってどんな人にも勧められる。そしてどんな人でも必ず美味いと言うと思う。唯一気に食わないのは、俺より先にマスヒロが行ってBLOGに取り上げてしまった事くらいか。
『とんかつ北品川』のジャンボ海老フライ(北品川)
まぁここの事は別記事にしていずれ嫌という程書きますw。知ってる人には説明不要。センセーショナルな盛りや親父のキャラばっかに目がいくけど、ここ以上の海老フライ出せる店があったら是非教えて欲しい。俺は知らない。
『魚豆根菜やまもと』の7500円コース(恵比寿)
この間上下西東に行って気分の悪い思いしたのは、一つにはこういう素晴らしい店に今年先に行ってしまってたからというのもある。料理のクォリティ、アイディアも勿論だけど、内装、まだ若い店主の立ち居振る舞い、始まりから終わりまでの程よいテンポ、どれをとっても月とスッポン。そして何より、皿のそこここに隠された気の利いたアイディアが秀逸。例えばこの一見普通のお造りは、皮面をワラで軽く燻してある。このひと手間がいかに効果的かは文章では表しにくい。金儲けよりも、美味い物を作るのが好きで、美味い物を食わせるのが何より好きという空気が充満している店というのは気持ちいい。
『手作りの店さとう』の麦とろご飯と山芋もち(奥大井)
奥大井にある絶景のダム湖が広がる寸又峡の入り口にある、なんてことない食事処。ここの定食(つーか麦とろご飯)美味さは、もしかしたら素晴らしい環境込みでの印象かもしれないけど、食にはそういう要素も重要である。あの環境で食う、絶妙な塩加減の味噌仕立ての麦とろご飯は感動ものであった。また写真左の揚げたての山芋もちも昔懐かしい味で良かったなぁ(遠い目)。また是非行きたい。
『美家古鮨』の海鮮しゃぶしゃぶ(大森)
これも今年かぁ。もう随分前かと思ってたが、今年は食に関して随分充実してたんだなぁ。ここもただ普通に行ったのではその凄さは分からない、通常の寿司屋とは違う、北品川の親父やゆるりの親父のような、ある意味頭のおかしい親父の店である。特に写真の海鮮しゃぶしゃぶは、今でもハッキリと味を思い出せるほど印象深い。しかしどうして俺の気に入る店の親父ってのは皆同じテイストを持ってるのだろうか。ちなみにここの親父の名字は小宮山という....納得。
『ゆるり』のブリづくしコース(池尻)
ここは味も勿論だけど、それ以上に親父の魚に対する異常な偏愛を楽しむ店である。とにかく親父の語り口からは、端々から魚への愛情がこぼれている。それを聴きながら食うとさらに美味いのだ。親父ごと食う(いや、変な意味でなく)店と言っても良い。それを地方の漁村とかでなく、池尻のど真ん中で出来るというのが凄い。ただただ(俺が)酒が飲めないのが悔やまれる店でもある。
『市場食堂海寳』の刺身定食(氷見・富山)
先日、市場食堂という大層魅力的な本を買ったらここも載っていたが、市場食堂はいい。横浜の秋葉屋食堂には行った事あるが、どこも同じというわけではなく、港や市場、それぞれの土地の特色が最も良く反映されてるのがこの市場食堂ではなかろうか。この海寳は、市場の中2階のような場所にあり、テレ東のゴールデンでよく見る市場の競りなどの風景のすぐ上で、おっちゃん達のかけ声をBGMに新鮮な刺身や旨味たっぷりの椀ものが食える。なるべく早い時間に訪れたい。
『大作』(静岡)
春に行った、matsuやん引率による静岡グルメツアーでの初日夕食3軒目wに訪れた、気軽に静岡の美味な魚介が楽しめる店。駅前に大きな同名店があるらしいが、そっちではない。土地勘が無いので場所が良くわからんが、静岡駅近辺にあるこじんまりとした居酒屋。そのツアーは、さくらももこの行きつけ、かねだ食堂から始まって、モツカレーの金の字、ゑびす町、いちごジェラートのYAMAROKU、〆のスマル亭まで、どこに行っても不味い物を食った記憶が無いのだが、この店がハイライトであった。新鮮な生しらすや生桜えびはもとより、写真の団扇海老、ながらみ、さつま揚げ、カサゴ、茶の葉の天ぷらなど、静岡の魚介の美味さを堪能させてもらった。
●その他部門
『ロウホウトイ』の牛肉胡椒焼きそば(白金)
いわゆるヌーベルシノワっつーんですかね? 知ったこっちゃ無いけど、白金にあるコジャレた中華料理屋であります。予約が取れない事で有名なロウフウフォンの支店つーことで行ってみたが、なかなかどうして、とても上品な味付けで大変美味しい。一発目薬膳スープから感動させられたが、写真の牛肉胡椒焼きそばは特に絶品であった。そして料理もさることながら、出てくるお茶がまた大変美味しい。接客も良い。全体に量が少ないのでコースに単品追加で行くと良いと思う。しかし今年の中華がここ一店だけってのはやはり寂しいのう。
『La Piccola Tavola』のマルゲリータ(永福町)
もはやパスタを外で食って感動する事など殆どないが、設備が物を言うピッツァだけは如何ともしがたいので、こういう本物を食って『いつか作っちゃる』との野望をメラメラさせてるのだが、道は遠い。釜の前に生地作りでやらねばならん事が色々ある事が、この前作ってみて分かった。ここと下高井戸のトニーノはしばらく通う事になると思う。
タイの水上レストラン(名前不明)の空芯菜炒め(タイ)
ここは海外の上に、場所も良くわからないド田舎の、車でないととても行けない場所にあるので、ここで紹介しても仕方ないかもしれんが、あまりに美味かったもんで一応。タイ料理はそれほど食ってるわけではないし、何度か仕事でタイに行って現地の人間に連れて行ってもらった店で(美味いけど)感動する程の店に当たった事もなく、勿論東京でもそれに類する店に当たった事は無いが、ここで食った料理は別格であった。中毒性のある料理に久々に出会った。もう2度と行けないであろう事がそれに拍車をかける....。
『ちくめい』の新茶(静岡)
静岡の人は『ウチのお茶が一番美味い』と思ってると聞くが、確かに静岡の新茶のいいところを、入れる人が入れればこんな別次元の飲み物になるのかと思い知らされた店。出汁が取れるんじゃネーの?と思うくらい何とも言えない旨味というか味わいは本当に感動した。一時期台湾のお茶にハマって、『台湾以外のお茶はお茶じゃない』なんて思ってた事があったが、日本のお茶も凄いという事に、この年で気づいておいて良かった。
●特別賞
『Vietri』のパスタ(乾燥パスタ・イタリア)
ホントお世話になったというか勝手に世話を焼いたというかw、ここのパスタを知ったお陰でズブズブとパスタ地獄(天国)にハマっていった。蕎麦、うどん、ラーメン、とんかつ、焼肉、カレーなど、かつて色んな食い物にハマって、それぞれ今もペースを落としながらも継続して楽しんでいるけど、これが最終着地点の予感がしてます。これ以上やるならもうプロになるしかないというところまで行ってみるかなw。 Vietriについては、別項を設けて後ほどちゃんと書きます。
『名門』中村店長(四谷・東京)
衝撃という意味では今年一番の店。出される料理の味そのものよりも、店長のキャラを含めた総合エンターテイメントとして価値のある名店。こういう方向性も全然嫌いじゃないどころか、やはりその根底に流れる精神は、美味いものへの偏愛と過剰なサービス精神に裏打ちされているのが良くわかって、味覚だけでなく五感をフルに楽しませてもらえるという点で俺的殿堂入り店の一つと言ってもいいかもしれん。これもやはり食文化(って程大げさな事ではないが)の一つの到達点だろう。
◆最後に
真顔でwパスタ作り始めて、毎週末人を呼んでパスタを振る舞うようになってから良くわかるようになった事が一つある。それは、その店の料理に対する色々な意味での愛情の度合いである。出てくる一皿、内装、店主や店員の振る舞い、そこかしこにそれは表れ、俺の満足度に直結する。美味い料理が作れるのは当たり前。その上でいかに料理そのものに愛情を注ぎ、それを表現しているか。そして来てくれた人にどうやってそれを伝えて感動してもらうか(以前から『頭がおかしい』と盛んに俺が言ってるのは、この愛情が過剰な店主の事である)。経済的な効率やバランスだけを優先している店はすぐ分かる。そして人がそれにどう騙されているのかも。少なくとも俺が紹介してる店にそういうのは無いのでご安心を。人によってはその深き愛故に暑苦しいと感じる事もあると思うがw。
来年もまた美味い物に沢山巡り会えますように。