うな慎@舞阪
台風4号が突進してくる中、それに逆らうように、マゾっ気全開で西に向かって車を走らせてみた。目的地は岐阜だが、この時期にどうしても食べたいものを食べるために、途中高速を降りて浜名湖の南側にある舞阪に訪れた。『この時期』、『浜名湖』といえば何を食ったかもうお分かりだろうが、わざわざ台風の中遠回りして行くのだ、ただのアレじゃない。生、つまり刺身のソレなのだ。
通常うなぎは刺身で食うもんではない。これは世界共通。刺身で食うには、イクシオトキシンという毒素(火を入れれば問題なく食べられる)を含む血を完全に抜かなくてはならないため、手間と技術が要る。わざわざそこまでして食うものではないのか、単純に焼いた方が美味いのか、日本では蒲焼きが一般的だが、地方(大分など)によっては刺身で食う地域もあるという。人間、美味のためなら手間ひまなぞ惜しむわけがない。毒があろうが、その処理がどれほど面倒だろうが、それに値する味があれば普及するものだ。フグなぞいい例である。ということは、やはりウナギの刺身はその手間に値しない味なのだろうか。その辺のところをどうしても確かめたかったのだ。
訪れたのは、うなぎの刺身で有名になった(らしい)うな慎。古くから地元に根ざした店なのだろうか、お年寄りの一人客が多かった。
事前にうなぎの刺身で色々検索してみたら、どうも元祖は埼玉の松伏にあるこちらの店らしいが(『うなさし』の登録商標もここがしてるらしい)、さしたる根拠もなくただ通り道という理由でうな慎をチョイス。生のうなぎというものがとてつもなく美味ければいずれ埼玉の方にも行ってみようと思うが、このような存在自体がレアな料理に元祖とフォロワーに大きな違いがあるとも思えないし。
さて、これが問題のウナギの刺身である。見た目はなかなか美しい。フグのような薄造りにしてるということは、身は引き締まってコリコリした食感なのだろう。そういえば以前穴子のお造りを食った事があるが、フグというより見た目はそっちに近い。穴子の方がより白かったが。
実際食ってみると、想像通りシコシコした歯ごたえがある。しかし穴子やフグと違ってより脂が乗ってて味が濃い。ポン酢に浸けると脂が滲み出る。カレイのエンガワとまでは言わないが、それに近い存在感。食感こそ近いが、フグのような繊細な味わいとはまた趣を異にする。半分恐いもの見たさもあったが、想像したよりはだいぶ美味しいものである。勿論天然のトラフグに勝る味ではないが、少なくとも穴子よりはパンチがあって好きな味だ。どうしてもまた食いに来たいという求心力は無いが、他で代用が効く味でもない事がわかったので、食いたくなればまた来るしか無い。少なくとも、ここまで来て食べておいて良かったと思えた。
目的は済んだが、これだけで帰るわけにもいかないので当然うな重を注文。うな重は...まぁ普通でしょうかw。刺身を売りにしてるだけあってうなぎの質はなかなかのものだが、焼きムラがあって端の方が少し炭化してしまってる。タレもベタついた感じも無く食べ易い味付けだけに、ちょっと勿体ない。これでは白焼きの方を頼んでもそれほど違う印象はないだろう。まぁ帰り道にまた高速を降りて美味いうな重を食って帰ればいい。ウナ刺しで充分楽しんだし、初日の昼飯はこれで充分満足。
ウナ刺しの珍しさもあってか、メディアにもよく取り上げられてるのだろう、地味な土地だが芸能人やスポーツ選手のサインが結構あった。が、うな重の方はわざわざ高速を降りて食いにこさせるにはチト弱いので、どうしてもうなぎの刺身を食ってみたいという人向けの店だろう。実際、話のタネに一度は食っておいて損の無いなかなかの味である。