まさ吉@武蔵小山
誰にでも『人に教えたくない店』の一つや二つあるだろう。俺は自ら好き好んでこういうblogをやってたりする事からも分かる通り、人に教えたくないなどという事は滅多にない。そもそも隠しだてするほど凄い情報を持ってるわけでもない(大体自ら『俺は舌が肥えてる』なんて言うやつ程信用出来ない)し、基本的には何でも開けっぴろげてこれまでやってきた(いずれは紹介するつもりだが、まだ紹介してない店は沢山ある)。何故なら、紹介する事で俺の趣味趣向が理解出来、それを見たスキモノのモノズキが俺にもっといい店を紹介してくれるかもしれないと期待しているからだ。雑誌やグルメサイトなどでなく、そうやって得た情報が何よりも信用出来るのだ。しかし今回、初めて『ここの事をblogに書くのはやめようかなぁ』と思った。初めて行った店なのに、『色んな意味でここは大切にしなければいけない店だ』という事が嫌と言う程理解出来たからである。それについては細かくは説明しないが、一言で言えば、店主である小玉さんの人柄や、作り出す味に滲み出る、繊細かつ地に足の着いた力強い『志』を感じ、それに強く共感したという事だ。それでも書く事にしたのは、小玉さんに『どうぞ書いて下さいよ』と許可を貰ったからというのもあるが、結局は逆らえなかった俺の性(紹介したい欲)によるところが大きい。
ここが使う鶏は越の鶏という新潟のブランド鶏(not地鶏)だ。店主曰く『肉はそこそこだけど、中身は凄いですよ』と。いやいやこの後出てくる内臓系も凄かったが、銘柄鶏でもないのに、雑味が全く無く、まるでバターでも使ってるかのような濃厚な旨味を持つこのササミを食えば、主人の謙遜が嫌みなほどである事が分かる。それもこれも異様に丁寧かつ繊細な気遣いが感じられる主人の焼き方によるところも多いのだが、とにかくこれ一串でノックアウトされてしまった。『とりあえず初めてなのでお任せで何本か焼いて下さい』と言った一本目だったが、これでスイッチが入ってしまい、全串クリアするべく食い倒してしまったw。従って今回はメニュー数が多いがご勘弁願いたい。
続いてネギマ。歯ごたえという意味では宮崎や比内などの地鶏系に一歩劣るが、旨味では決して負けていない。これで弾力と歯ごたえがもう少し強ければ言う事は無いが、ネギマ特有の、ネギの甘みと鶏の旨味のハーモニーは十分感じられて美味。しかしいつ頃から鶏でもネギマと言うようになったんだろう。
つくねも素晴らしい。叩いたナンコツの入り加減も絶妙だし、ミンチからは勿論、そのナンコツからすら旨味が溢れてくる。卵黄に頼る必要性を全く感じない。甘めかつアッサリしたタレもとても好み。これも丁寧な仕事のなせる技だ。
ササミに続いてビックリしたのがこのレバー。流石に主人が言う通り、越の鶏の内臓は凄い。濃厚さ、プリプリ感、色つや、そして秀逸なタレの味付けからレアな焼き加減(でも中までちゃんと温度は感じられる)まで、これまで食べた鶏レバー串の概念を覆された思いだ。この一串を食べ終えた時点で、俺にはもはや、例えば銀座の某お高い焼き鳥屋などは必要なくなったと言える。
セセリ。関東ではスキミと言ったりもする。ようはネック。網焼きはよく食べるが、串で食べるのは初めて。こうするとまた食感が変わって面白い。網焼きより密度が上がった感じがして、歯ごたえも増した印象だ。まぁ宮崎のセセリは普通に焼いてもこれ以上の強い弾力が感じられたが、あれは別格として、都内ではこのレベルのスキミにはなかなかお目にかかれ無い。
ウズラの卵。こういうものでも焼きに手を抜かないのがここの主人。丁度目の前で焼きを見れる席に座ったのでチラチラ見ていたが、火の加減を串を置く位置をこまめに変えることで、異様な集中力でコントロールしていた。ただのゆで卵が、焼き方一つでここまで違うものに変わるという良い例。食材の質だけに頼らない、これこそ焼き鳥の醍醐味だ。
ハツもまた、『中身は凄いですよ』発言を裏付ける、ここに来たら是非頼みたい一品。これほどクセが無く旨味と歯ごたえだけで食わせるハツも珍しい。続けて3本ぐらい食いたい衝動を抑えて次へ。
手羽。これもまた焼き&塩加減が絶妙。筋肉質な歯ごたえが堪能出来る。ちなみに新潟出身の店主は、鶏も新潟だが塩も新潟のものに拘っている。〆に出てくる米も勿論コシヒカリだ。やはり新潟は一度本格的にツアーをやっておかねばならないな。
この辺で少し箸休め。ポテトサラダがこれまた絶品なのだ。少しマスタードを効かせた味付けと芋の砕け具合wがかなり俺好み。水菜と組み合わせるのもちょっと珍しい。
そしてここまで食べて来て一番食いたかったぽんじりを。さぞかし濃厚なAss holeがw食えるだろうと思ていたら、その予想を遥かに上回る蕩け具合。いやぁ最高。焼き鳥の中でも、ここほど余計な理屈がいらない部位もないだろう。食えば分かる。
鶏の中でも一番濃厚な部位を堪能したあとは、少しヘルシー(気のせい)に野菜巻きを2種。まずはアスパラ。炭火でギリギリまで余分な脂を落とした豚の旨味は、野菜と最高に合う。特に、中からジュワッと水分が溢れてくるアスパラは相性ばっちりだ。
二串目はトマト巻き。これを最初にやり始めた店は偉いなぁと思う。『ジュワッ』という意味ではこれ以上の野菜は無い。しかもこのトマトは旨味も濃厚で、巻かれた肉の旨味と十分拮抗出来る存在感を持つ。これも行った際には絶対に頼みたい一串だ。
これは膝ナンコツ。焼き鳥でナンコツというと薬研(胸)ナンコツが一般的で、大抵の店ではナンコツというとこれが出てくるが、膝の方が食べやすく美味い。肉を間に挟み込まなくても、ナンコツ自体とそれに付随する肉だけで充分な食べ応え。
ここから〆に向かってもう一度箸休めタイム。黒板メニューの中落ちを頂く。仕入れ先は聞かなかったが(まあマグロはどこでもいいけど)焼き鳥屋で出てくるもののレベルにあるまじき蕩ける舌触り。こういうものにも手を抜かないのところに、小玉さんのコンセプトが見え隠れする。
焼きで驚愕の質を見せつけたレバーは当然刺身でも美味い。軽くタタキにしてあるが、鮮度はそんな手間必要ないくらいのものだ。しかしその軽く入れた火がもの凄くいい仕事をしている。臭み隠しではなく純粋に旨味の活性化のために入れた火であるという事が良くわかる。
これで、ここまで接種した多量の動物性タンパクがチャラになるわけでもないのに、半ば自分への言い訳のように野菜(しかし茄子w)を頼んでみる。『焼き鳥屋(or焼き肉屋)で野菜を頼むなんて、俺には理解出来ない』なんて思っていた俺でも、これなら納得の味。茄子は油との相性がいい野菜の代表だが、本当は油を使わず素焼きにするのが一番美味い。俺もパスタに使う時は、茄子は別のフライパンで焼いてソースを吸わせないようにしている。
さて、ここからが怒濤の〆攻勢。これから行こうと思っているに人は、以下に紹介する三つのどれかを頼むために、必ず胃袋の隙間を作っておく事(それぞれミニもあるので安心)。これを目当てに来る客(そしてこれらしか頼まない空気を読めない客)もいるらしい。実際、このつけそばの美味さは尋常じゃない。これはあんまり詳しく説明したく無いので、とにかく食ってみる事をお勧めする。その辺のラーメン屋の店主が、如何に精進を怠ってるかが分かる。
とはいえ、三つも紹介したって、大抵の人は〆に全て食うなんて芸当は不可能だろう。4人で来ていれば回し食いも出来るが、どうしてもどれか一つ選択しなければ行けない場合は、このラーメンをお勧めしとく。麺はまるで博多系のような繊細さだが、あんなにポクポクしていない。聞いたら近くの大黒屋製麺(ラーメン好きなら知らないものはいないだろう)に特注しているらしい。そりゃこれだけのもの出されたら、空気読めないと思われてもこれだけ食いに来たくなる気持ちも分かる。ラーメン食って感動したのは(この前に食って感動したのが泉屋さんの鮎ラーメンだから)二年近くぶりだなぁ。ラーメン専門店という意味では王子神谷の伊藤以来か。ますます俺にとってラーメン専門店の必要性が薄くなったな。
そして〆御三家のトリをつとめるのがこのトリ丼(まんまやね)。庭つ鶏の淡白で優しいそぼろご飯もなかなか良かったが、ここの味、食感ともにパンチのあるそぼろも素晴らしい。米も鶏も塩も全て新潟に拘っているが、それがこのえも言われぬ一体感を生んでいるのだろうか。麺類に比べて量もあるので頼む時は気をつけましょう(ミニを頼めばいいんだけど)。
名残惜しいが胃袋も流石に限界(当たり前)。引かれる後ろ髪を引きちぎって、ここの唯一にして大定番デザート『ほろにがプリン』で大団円を迎える。濃厚な卵の旨味がちゃんと感じられる、鶏三昧の〆にはもってこいの一品。別に何品もデザートを用意しなくても、いつ食べても飽きさせないキラーメニューが一つあればいい。そしてその一品を焼き鳥屋で持つという事に、またもや店主の心意気を感じられるのだ。
腹だけでなく、気持ちの奥底まで本当に満足感で一杯になれる店は、東京では久しぶりに出会った気がする。味は勿論、店主のキャラ(基本は気さくだが、炭火に向かう姿はさながらTurntableを前にしたDJ KRUSH。雰囲気も似てるしw)、店の大きさ含めた気の置けない雰囲気、どれをとっても東京ではこれ以上無いくらい俺の好みにバッチリハマっていて、冒頭にも書いたが本当に大切にしたいお店である。
そこで、このレポートを読んでこれから行ってみようかなと思った方にお願いが一つ。何度も言うが、ここは東京の焼き鳥屋で唯一、俺にとって『とっておき』と言っても過言ではない店である。これを読んで行ってみようと思ったなら、どうかこの店を大事にしてあげて欲しい。そしてもし誰かと一緒に行くとか、誰かに教えてあげようと思ったなら、社会人として最低限のマナーや、不特定多数の集まる場所での節度ある振る舞いが出来る人のみに限って欲しい。この言葉に偉ぶった気持ちは微塵もない。ただただ純粋に心からのお願いである。別におカタい店でもおタカい店でもない。北品川のような特殊なw店でもない。門戸は誰にでも開かれている。だからこそのお願いだ。
最後にひとつ。ここはreggae / Jamaica好きが行くとより楽しめるかもしれない。別に店内ジャマイカ一色!というわけではないが、トイレにはパブロの名盤ジャケ(何度見てもいいジャケだよなぁ)がさりげなく飾ってあったりする。BGMは店主自らのMixだ。まぁ詳しくは実際に行って店主と話してみて下さい。
Comments
ごぶさたです。
美味しそうですよ。
そして頻回に宮崎の名前が。。。。
来週完全に宮崎に引っ越しますので、秋頃是非とも宮崎へおいでませ。
Commenter: けい | 2007年06月22日 18:23
けい君:
お、ご無沙汰。
宮崎といえば宗八は行ってみた?
タクシーで行ったので記憶が曖昧だが、多分↓ここ
http://gourmet.yahoo.co.jp/0006409775/0009302302/ktop/
幸加園の特選ロースも食いたいし、海の幸も勿論堪能したい。
そのまんまが今更宣伝するまでもなく、宮崎は食材の宝庫だよなー。
あー、早く行きたい。
Commenter: pasta-man | 2007年06月27日 13:03