時よし@小田原
温泉後は、これまた見晴らしのいい休憩室(結構人はいたが、誰一人喋る人がいなくてとても快適。皆さん実に大人)で野草茶を啜りながらまったりとして、日も暮れた頃にゆっくり出発。箱根のワインディングは初心者には楽しいけど少々キツいです。途中タクシーに軽く煽られたり(一度ガードレールに擦りそうになったり)しながら次の目的地小田原へ。本当は、午前中にこちらに到着して昼はこことかここ、夜はこことか、予定通り行けばさらに足を伸ばしてここまでも視野に入れていたのだが、最終的にその瞬間の気分で寿司に決定。温泉ってのは結構な運動になるw。到着する頃にはすっかり胃もスタンバイ状態に。
時よしは、比較的小田原駅の近くにあるものの、裏手の結構寂しいところにあるので意外と見つけにくく、結局店主に電話で誘導してもらいながら到着。まだ夜7時半くらいだったが、この日最後の客となった。店主も女将も割と年配ではあったが、それを感じさせないキビキビした動きで対応もにこやか&爽やか。別に小綺麗な店内ではないが、貸し切りにしてしまうのが勿体ないほどの居心地の良さだ。最後の客だし、あるネタをお任せで一貫ずつ握ってもらう事にした。以下写真のクォリティが低いのは車にカメラを忘れて携帯で撮ったため。いつも再び写真を撮ってくるまで載せないのだがw、旅の一環として紹介しときたかったので不本意ながらこれで。いずれまた撮り直してくることだろう。
まず白身から。ソゲ(ヒラメの子供。1kg以下のものを言う)はヒラメと比べかなり淡白で上品。ここのすし飯はやや柔らかめで酢も穏やかなので、淡白なネタでも比較的早く口の中で自然に解け合ってとても好みである。
続きましてオニカサゴ。ソゲからの流れでより強い旨味と甘みが堪能出来る上、シャキシャキ(というと語弊があるか)とした歯ごたえが素晴らしい。
そしてより濃厚な旨味が堪能出来るカワハギへ。とはいえ、時期とは言えないだけにキモが贅沢にたっぷりと仕込んである。春前なのに水っぽさはなく、あの旨味を存分に堪能出来た。これが不味いハズないでしょう。
カワハギキモの濃厚な味わいを堪能した後はさっぱりとコハダ。江戸人がなんでこれほどコハダを有り難がるのか、他の地方の人間には理解しがたいかもしれない(初物はキロ25000円とかになるらしい…)が、やっぱこれがないと春は来ないのね。サッパリとはいえ、ここのはしめかたもマイルドでコハダの味をしっかり噛み締められる。
次の光り物はしめ鯖。こちらもかなり浅くしめられていて、旬を過ぎたサバでもしっかり濃厚な鯖の脂を味わえる。というより秋に食った鯖とほとんど遜色なくとても美味い。コハダや鯖を見る限り、この店は活きの味わいを生かした最小限のしめかたをしていて非常に好み。
そのままアジへ。『今年は早いねぇ』という大将の言葉通り、この時期なのに驚くほど脂が乗ってて最高に美味。やはり温暖化の影響か? 魚にもよるが、かつて旬と呼ばれた時期がどんどん早まってるようだ。
イカ。名前なんだっけなぁ、聞いたんだけど失念。味はヤリっぽいがよりしっとり甘い感じ。穏やかな味のシャリと絶妙に合う。
貝類盛り合わせ。身の厚いプリップリのアカガイも捨てがたいが、中でも生のトリガイの甘みが絶品。食う機会は多くないが、やはりトリガイは生の方が断然好きだ。ホタテも程よく身がしまって甘みも抜群。この時点でかなりの満足度。
軍艦は小柱とイカの塩辛。この塩辛がまた美味い。塩辛と言うよりはイカの刺身の肝和えという感じか。こんなにフレッシュな味わいの塩辛は初めて食す。しかし仄かに漬け込まれた熟成感もあり、保存食としてではなくあくまで料理としての技といった赴き。聞けばこれが最後の塩辛で、次に食えるのは来年だそうだ。ラッキーというかアンラッキーというか。
ここからはお替わりタイム(どんだけ食うんだ)。寿司ネタとしてのホタルイカは、生よりこうして火の入ったもののほうがふっくらとした甘みが味わえて好きだ。流石にこの時期のものはワタもたっぷり抱えていて濃厚で美味い。クチバシなど歯に触る部分は綺麗に取り除かれていて仕事も実に丁寧。
ここの上品かつ丁寧な仕事を見ていると、淡白なネタの方が楽しめると思ったので、マグロはトロでなく赤身を軽くヅケにしてもらった。これもまた蕩けるような味わいで絶品。薄味でどちらかというと甘みの勝ったタレとの相性も抜群。赤身の旨味が最大限に生きてる。
最後は穴子と煮蛤で。ともに素晴らしい口溶け。ヅケの味付け同様甘みの強いタレなので、俺の好みとはちがうハズなのだが、薄味でしっかりネタの旨味が引き出されているため、単なる甘いか辛いかのような好みで語る事の浅はかさを悟らされるような仕事だ。そこに必然性があれば、そのような差異は小さな事である。
〆にオニカサゴのみそ汁を。有り難いとしかいいようがないw。
加えて、ここの醤油がとても好きな味であった。好みというより、これまでの『好み』をやや見直さざるをえない味と言うか。たまりのようにトロッとした質感なのだがしつこくなく、甘みがあって香り高い。恐らくヅケや煮付けにも使っているのだろう。だから全体に、色は着いていてもトゲのない上品な甘みがあって、甘いタレの嫌いな俺でも素直に美味しいと感じられたんだな。是非買って帰りたいと思ったが、銘柄聞くのを忘れたw。
決して洗練はされていないし真新しさもないが、とても実直な仕事で、絶賛とは言わないが素材の確かさもあり、実に満足度の高い寿司屋である。一見にもとても丁寧に接してくれる。おまけにこれだけの仕事でこれだけの量食って『え? それって一人分ですか?』という小田原価格(?)にも驚く。って、まぁ俺が値段の事を言うとまたご迷惑おかけしそうだから(苦笑)そこは詳しく突っ込まないでおこう。温泉とセットでまた是非来たい(多分そういう人は沢山いるだろう)店だ。写真も撮り直さないといけないしね。ということで、今回も、大幅に予定が狂ったとは思えない満足感の高い日帰りツアーであった。