庭つ鶏@五反田
N氏(一般人に戻ったので、一応イニシャルw)がVietriジャパンを閉めて以来、久しぶりに男同士サシで飯を食いに行ってきた。『その後どうよ?』とか『俺は相変わらずだよ』なんて話で盛り上がりつつ、摘んだ料理は全て鶏、酉、トリ。二人して訪れたのは、五反田に昨年出来た、鶏料理の専門店庭つ鶏。今年後半に限れば、俺が最も期待していた店である。なにせここの店主は、朝締めの鶏を客に出す直前にさばいて出したいがために、わざわざ食鳥処理の免許まで取得してしまった人なのだ。鳥料理屋といえば大抵は産地などの銘柄をウリにしている場合が多い。確かに新鮮な本物の名古屋コーチンや比内地鶏は美味く、コクも歯ごたえもその辺の鶏とは別物。しかし、最近はその名前が付いてるからと言って一概に美味いとは言えないほど安易に名前が一人歩きしている。ここは、そうして形骸化様式化した名前よりも、鮮度というブランドを一番大事にしているのだ。この明快かつ強いコンセプト。いてもたってもいられなくなるには十分な魅力を持つ店である。
そのコンセプトを具現化したために、鳥料理屋にも関わらず店主の立ち振る舞いはまるで寿司屋の熟練板さんのようである。カウンターの中で客と対面し、注文が入るたびに魚のように鳥を捌く。他のblogなどで『解体ショー』などと書いてる輩もいるが、そんな下世話な雰囲気は微塵もない。店主の、素人目に見てもなかなか鮮やかな鶏を捌く手つきにしばし見とれてしまった。しかしバカ高いだけの某寿司屋などとは違い、店主はとても気さくで、手は止めずとも常に客に目を配り、タイミングよく客に話しかける。全く大したお店だと食う前から感心してしまった。
初めての訪問なので、店主にお勧めを見繕ってもらい、足りなければ追加するという形を取った。まずは刺身で4種類ほど。上から胸、モモ、砂肝、レバーだ。味は淡白で濃厚さには欠けるが、どれもそれぞれの部位ごとの味わいがハッキリ分かるほど新鮮。やはり鮮度に勝る物は無いとあらためて思い知った。当たり前だ、今目の前で解体される様を見ていたのだから。特に胸と砂肝は良かったなぁ。本当に久しぶりに砂肝のほんのりとした甘みを体感した。生肉が食えない人というのは、多分こういうのを食った事が無いのだろうな。勿体ない。
続いて口直し的に小鉢に煮込みが盛られてきた。本当に鶏と塩の味しかしない、実にシンプルかつストレートな強さのある煮込み。でも刺身からも感じられた淡白さがここにも出ていて、臭みも全くなく上品。刺身もそうだが、俺のような肉食らいには少々物足りなさも感じ無いでもないが、決して肉の味わいを楽しめないわけではなく、必要充分な旨味と一切の獣臭の無さを備えた料理ということだ。鶏が苦手な人こそ来るべきだと思う。
これは店主のおすすめリストに無く自分で追加したもの。新鮮なら、しつこくなりがちなこういう物にこそ真価が表れるだろうということで注文。はたして、必要最低限の焼き加減なのにべたつきもしつこさも無く、皮のあの旨味とクニュクニュの食感、そしてすぐに口の中でとろける感覚が素晴らしい。何の変哲も無いものだけど、頼んでよかったと思える一品。
これは今回個人的に一番気に入った料理。もも肉のたたきだ。皮目をパリパリ焼いてあるのに裏側は完全に生。こんがり焼いた皮の香ばしさと生のもも肉のジューシーさが同時に味わえる。これまでも似たような物は食った事あるけど、ここまでのコントラストは初めての経験。でも一番美味いのは、火が通ってるかいないかの境目の部分。適度に旨味が活性化されていて淡白な鶏でも驚くほど濃厚に感じる。その部分を核として、パリパリとジュワを同時に楽しむ。こういう食い方こそ和の真骨頂だよね。完璧。次も必ず頼む。
箸休めその2。流石に店主がタイミングと順番を考えて出してくれるので、欲しい時に欲しい物が出てくる。こういう部分でもこの店は、こうしたカジュアルな、しかも基本的に店主と従業員一人で全てまかなっているようなこじんまりした店とはとても思えないホスピタリティを提供して驚かせてくれる。こんないい店が、会社から比較的近い五反田にあるというのが意外でならない。
焼き物二つ目ささみの柚子胡椒焼き。これも美味かったなぁ。まぁ名前から想像出来る味ではあるけど。鮮烈な柚子胡椒の味と香りにも負けないササミの甘み。鶏の部位の中でも最も淡白な部類に入るのに、ある意味凄い。そして、これもモモたたき同様、火が通って旨味の活性化された部分とピンク色の生の部分のコントラストが、見た目的にも味的にもはっきりと付いていて面白い。
レバーと砂肝も焼いてもらった。鮮度の良さというのは何も生で食うときだけ意味があるのではなく、こういう焼き物にも当然のように差が歴然と出る。その証拠に、砂肝の食べ始めと食べ終わりの味の変わり具合が凄かった。鮮度と味の関係というのは、鮮度が高いほど急速に劣化し、時間が経つにつれその曲線は緩やかになるようだ。こういう臨界点に近い鶏を食うと、普段如何に緩やかな曲線を描く鮮度のものを食っているかがよくわかる。
最後に〆の鶏そぼろご飯を頼んだ。生卵付き。こんなにジューシーなそぼろを食ったのはいつ以来だろうか。久しく記憶に無い。そして生姜の効いたアッサリめの味付けも俺好み。途中から卵をかけてもその味わいは全然マスキングされることなくその変化だけを楽しめ、最後まで飽きる事無くフィニッシュ。
鶏という食材だけで、しかもことさらに技巧と趣向を凝らした料理が出るでも無いのに、ここまで食う者を最後まで引きつけ飽きさせない店というのは初めてだ。しかも全部自分で仕入れて捌くというのは、鮮度だけでなくコストにも直結しているようで、二人でこれだけ食っても一人5000円ほど(飲み物含む)。こういう店を形容する言葉というのは、結局『凄くいい店』というより他浮かばない。なぜなら、東京ではその『いい店』というもの自体が、それこそ比内鶏(not地鶏)くらいレアなものになってしまったから。少なくとも、今年知った店の中では間違いなく一番『いい店』である。特に鶏や生肉が苦手な人こそ行くべき。まるいのように、生肉/生レバーが苦手な人間にとって最後の砦となる店だろう。
Comments
五反田のどこらへんですか?
近所だから行きたい~。
Commenter: rei | 2006年12月20日 11:20
reiちゃん:
桜田通り(1国)を戸越方向に向かってちょっと行って、第一生命ビルの手前を右、最初の交差点過ぎて左側の建物の中にあります。半地下降りて一番奥の店。
東京都品川区西五反田2-18-3
Commenter: pasta-man | 2006年12月20日 15:14