魚豆根菜やまもと@恵比寿
西から相方の友人が遊びにくるというので、接待がてら久しぶりに行ってきました。実に1年以上ぶりかな。戸をくぐった瞬間に伝わる、相変わらず色んな意味で心地いい空気を醸し出している良店である。大勢で行くには不都合だけど、少数でまったりいい料理を楽しむにはここ以上の店はそうないと思う。俺が紹介する店は大体クセがあって好き嫌いが別れるところだと思うが、ここは老若男女問わず、誰にでも確実に喜んでもらえるであろう数少ない店であるw。名前の通り魚、豆、根菜を随所に使った体に優しい和食を供するのだが、かといって俺のような大食らいの肉好きが不満を覚えるかと言うとそうではない。脂っ気も無いし量も(俺にとってはw)特に多いわけではないが、様々な趣向で飽きさせず五感を満たしてくれる。帰る時には俺のような男でもすっかり満足して帰れる。ここがこの店の素晴らしいところだ。
この店には9500円と6500円のコースがあるのだが、俺はいつも6500円のコースだ。それで十分満足出来る。いずれにしてもまずは自家製の豆腐から始まる。豆腐自体美味いのは勿論だが、毎回独自性の高いトッピングで楽しませてくれる。いつもはそれが何か説明してくれるのだが、今回は『何か当ててみて下さい』と言われたので、きっと店主も俺ごときには分からないだろうと思っていたのだろうが、生憎一発で当てたw。何故ならそれはルッコラだったから。ルッコラの胡麻のような風味と苦みが豆腐の甘みをいっそう引き立てるなかなかのアイディア。店主は、こんなアフロの怪しい男がすぐ言い当てたので驚いていたがw、パスタマンを名乗っているのにそれを外したら看板を返さないといけない(誰に?)。こういうコジャレた会話で始まるのもたまには楽しい。
続いて前菜盛り合わせ。ふきや山葵菜、新ジャガの炊いたもの、桜海老やホタルイカが盛り込まれている。どれも穏やかだが計算し尽くされている味付けに唸る。この店は色んなジャンルの料理のエッセンスを美味く生かして、実は結構チャレンジャブルな素材使いや味付けを(気づかれない程度に)施して楽しませてくれるが、同時にこの国ならではの季節もしっかり演出してくれて、日本人で良かったと思わせてくれる。そういうバランス具合が俺のツボにぴったりハマるのだ。
前半の山場、お造り。今回は金目とタコ、鰆という選択。メインになる魚は結構大きく切ってあり、必ず皮目を藁で燻して出してくる。これが嫌みでない燻し具合で実にいい塩梅。手前に見える柚子胡椒がまたいい効果を発揮する。これは相当辛いが単体で嘗めても美味い。酒のつまみに持ってこいだ。と、酒飲みの振りをしてみるw。
ここで一息椀ものを。このタツノオトシゴのような佇まいの筍を見れば分かると思うが、繊細な仕事である。表の皮をあれだけ残して均等な厚みに切るのってかなり難しいと思うんだけどなぁ。俺もこの春は和物パスタの研究に明け暮れたので筍は何本か茹でたけど、これはとても真似出来ない。
焼き物。甘鯛の炭火焼である。皮の香ばしさとしっとりふっくらの身とのコントラスト。ストレートに素材の良さを感じる仕事。ここでは凝って、ここでは直球に、ここでは繊細に、といった緩急の付け方が絶妙なのだ。良い料理人はまた、良いDJでもある。
穀物たっぷりで食事のようだが、これは鍋物。豆類と麦、山菜と粟麩というのがここの定番の組み合わせで、味付けはそれらから出る味を損なわない最小限の塩加減。今回は湯剥きしたプチトマトの酸味を加えて爽やかさを演出。
箸休めの小鉢。大豆の醤油漬けとワカサギの佃煮、それに野蕗。俺は大豆をここ以上に美味く炊く店を知らない。
これはイカの粕漬けとワタの塩辛。実に美味。『悦凱陣純米酒無濾過攻めブレンド』に合わせて出してきてくれたものだ。実は5月4日で38歳になったのを機に、酒(ワインと日本酒)を少しずつ練習しようかなと思っていて、これも一口飲んでみたのだが、いやぁ、美味いもんだねぇ、日本酒ってw。体質上グイグイ飲むわけにはいかないが、少なくともこういうレベルの酒で練習しないといかんよな、目的上。
締めの食事。芋(珍しい名前だったのだが失念...)のおかゆだ。これも素材自体の味を十分生かしていて、塩は仕方なく入れてる感じw。体に優しい=地味というより、このご時世非常に贅沢に感じる。前の鍋とかぶると思われそうだが、間にアクセントを二つ入れて〆を出してくる事で飽きさせないのも心憎い。
最後にひとつだけ。この店はカウンターメインだし、酒も(種類は多くなさそうだが)面白いものが置いてあるので誤解されそうだが、あくまで食事処だと俺は思う。量もご覧の通り、決して少なく無い。ここで最初に腹を満たして、料理にあった酒をあくまで食事を邪魔しない程度にたしなんで、飲みたければ次の店へ、というのが正しい使い方のように思う。ここが実は俺が一番気に入ってる理由かもしれない。