増吉@田中屋せんべい総本家
岐阜は大垣の三大名菓(と勝手に言ってるが本当のところは知らない)のひとつ、味噌入り大垣せんべいの田中屋せんべい総本家から新作が登場。その名も創業者田中増吉の名を取って『増吉』という。円筒の缶に入っていて、通常の味噌入り大垣せんべいの高級版の『特選』、落花生の練り込まれた落花せんべい(皮付きと皮なしがあり)のセットだ。これがちょっと動揺を隠せないほどw美味い。通常の味噌入り大垣せんべいもやみつきになるくらい美味いのだが、この詰め合わせに含まれる『特選』はちょっと次元の違う美味さだ。
特に香り。なぜ田中屋のせんべいが固くないといけないのかがよくわかる。固いがために、噛み砕いた瞬間にせんべいが『パーン!』と口の中で弾ける。この時最初にくるのが、舌に感じる味よりも鼻に抜ける香ばしい香り。その後にじわーっと味噌と胡麻の甘み旨味が口中に広がるのだが、このせんべいが破裂した瞬間鼻を突く香りこそが大垣せんべいの真骨頂だと思うのだ。そしてこの固さは、田中屋が最も拘る表面の艶にも直結しているハズ。俺の普段の飯の種wである工業製品の世界においては、艶(光沢)=表面の平滑度=密度/強度を表すからだ。こんな事は(横浜育ちの俺にはとても新鮮なのだが)いちいち理屈で説明せずとも、多分大垣で生まれ育った人なら言わずと知れた(というより無意識に理解している)事だろう。
話がそれたが、この『特選』ってやつは、最初に抜ける香りが通常のバージョンとまるで違うのだ。色んな香ばしさが一瞬のうちに抜けて行くのだが、中でも胡麻の香りが凄い。スコーンと立ってる(って、今回はやけに擬音が多いな)。思わず、これに使われているオニザキの金ごまを取り寄せてみようかなどと思ってしまった。このえも言われぬ芳香が消えるのが嫌で、ついガリガリと食い続けてしまう。やみつきというより、もはや人をジャンキーに陥れる危険な食い物と化している。
味噌入り大垣せんべいは名物として全国的にもすっかり有名なので、ちょっと検索をかければネット上でも多くのレビューを見る事が出来る。しかしほとんどの紹介が『日本一固いせんべい』ってとこだけをクローズアップしていて、肝心の味の方はちっとも紹介していない。『じゃぁ何故固くないといけないのか』に言及している紹介は殆ど皆無だ。恐らくその歴史の長さ故、すでに茶の間に根付き過ぎていて、もはや味の方は暗黙の了解、『美味い事なんぞ分かってる。皆まで言うな』状態なのだろう。しかし気をつけないといけないのが、田中屋『以外』の味噌入り大垣せんべい(つまり類似品)が流通していて、それを食べても『固い理由』はそれほどよく分からないということだ(少なくとも俺の食ったやつはそうだった)。堅さは同じでも、その直後に来るはずの芳香が圧倒的に違う。というより弱い。また艶の無さの所為か、簡単に歯の侵入を許してしまうため、パーンと弾ける感じも若干少ない。決して不味い訳ではないのだが、こういうのを先に食べてしまったがために、この増吉の特選までたどり着けなかったとしたらそれは大変不幸な事だと思う。
余談。『名物に美味いものなし』というが、それは本当の名物ではないもの(類似品など)を勘違いして名物ととらえてしまった者が言った事なのだろう。無論、有名になり過ぎて、店自体の堕落が原因で著しくレベルが落ちてしまったという例もあろうが、大抵の場合は、名物になるには名物になるべくしてなった理由がある。ただ、有名になればなるほど、雨後の筍のごとく類似品が増殖し、それらにマスキングされて『本当の』名物にたどり着くことが難しくなってるだけなのだと思う。そして、そんな状況にも関わらず、大して深く知ろうともせず安易に結論を出す連中によって『名物に美味いものなし』という結論めいたものが導きだされたのだろう。こういうことを簡単に口にする人間ほど、大して美味いものを知らなかったりするのだ。