天龍菜館@横浜中華街
しかし昨年末から今年にかけての、ウチの食の充実ぶりはどうかしてるとしか思えない。美味いのは勿論、俺好みのマニアックかつ色んな意味で愛情の豊かすぎる店ばかりに当たる事が出来て、早くも今年は外食大豊作の予感がしている。それもこれも、ことあるごとに書いたり喋ったりしてる俺の好みを察知して、色々な情報を提供してくれる友人達のおかげに他ならない。が、そんな中でも、ごく最近親しくなった友人であるmaicobra夫妻に先日連れて行ってもらったこの天龍菜館という店は、もう俺の好みのツボを突きすぎてて身体が穴だらけになりそうな勢いであった。ここを知ってしまった以上、今後は中華街といえばもうここにしか行かないであろう。俺にとっての最終回答と言っても過言ではない。
ここは中華街の門をくぐる前にある、一見やってるのかどうかも、そもそも飲食店なのかどうかも疑わしい、単なるガレージにテーブル置いただけのスペースである。今ではすっかりデートにも使える程小綺麗になったメインストリートからは想像を絶する、ゲットー臭プンプンのイナタい店。台湾かどっかの、ストリートチルドレンがたむろしてそうな通り沿いにある食堂を彷彿とさせる店構えで、特にその空気感は日本ではなかなかお目にかかれない空間だ。そこを80歳も超えたであろう愛すべきじじいが、たった一人で切り盛りしている。
店内に入ると小汚いじじいが一人座っている。こいつが店主ではないことはすぐ分かった。何故ならさっきまで道のゴミ捨て場でゴミを漁っていたのだからw。なんでここにいるのかよく分からないが、勝手に来ては店の手伝いをしてる(割には、邪魔してるとしか思えない動きを繰り返すのだがw)らしく、店主も実は迷惑してるらしい。この時点もうすでに飲食店として何かが間違ってるだろうw。適当すぎである。
気を取り直して壁にあるインターホンを押して全員揃った事を告げると、『ぁい、今行きますよー』と前のめり気味にしゃがれたカタコトの日本語が聞こえてきて、本物の店主のジジイが横の階段を下りてきて現れる。何故店の中に居ないかというと、なんと厨房が同じビルの3階にあり、上で料理を作っては、決して小さく無い皿を一皿ごとに一階まで運んでくるのだ。数年前まで病気療養を余儀なくされていた80歳のじーさんがである。つーかそこのゴミ漁りジジイはなんで暢気に新聞読んでんだよ! と突っ込みたくもなるが、よく考えればそんな(ゴミ漁った)ジジイの手で料理を運ばれたくも無いわな。
無理言って厨房も見せてもらう。3階まではかなり急な階段が続く。こんなん一皿ごとに上り下りしてるとは、スーパーなジジイである。中に入ると下の客のスペースより倍は広いw。まぁ厨房が充実してると言う事は、それだけ料理そのものに力を入れてる証拠と言えない事も無いが、それにしても(スペースだけの問題ではないにしろ)、キッチンの充実ぶりと客のスペースの蔑まれぶりの対比がここまで凄いのも珍しい。第一本人が一番大変だろう。しかし聞けば『一応ゴンドラ(料理を上げたり下げたりする小さいエレベーターみたいなの)もあるんだけどねぇ、面倒だから使ってない』とか言ってる親父はやっぱりどこかおかしいw。
つーことで(前振りが長くてすんません)、そんな変な環境の変な(しかし愛さずにはいられない)親父が作る極美味料理を、あり得ない変な環境(ホームレス?付き)で食ってきた、その全記録をどうぞ。
まず一皿目。鶏とキクラゲと金針菜の煮物。いきなりハイブロウな味にクラクラきた。写真はまるで美味そうにみえないがw、様々な香辛料を感じる深く穏やかな味わいは、家庭料理の素朴さとも、高級中華の複雑さとも言い切れない、むしろ両方の良さを併せ持ったような別次元の美味さ。60年前の広東の家庭料理を、記憶を頼りに再現してるというが、確かに軽くそれくらいの歴史は感じられる。凄い。
次も鶏。紹興酒につけ込んだ酔っぱらい鶏である。これはまた前者とは打って変わってストレートな鶏の旨味を満喫出来る明快でパンチのある味。肉質も柔らかく、驚く程クセが無くあっさりしてる。無造作に置かれたからしがなんともこの店らしい。
そしていきなり今日のハイライト。間違いなく俺の人生でNo.1の、黒酢を使った酢豚。黒酢というより、12年もののバルサミコのような複雑でまろやかなコクと酸味があとを引きまくり。肉だけなのに、なんだろう、全くクドくなく延々と食べ続けられる。これだけで3皿はいけそうな、危険な一皿。
酢豚と一緒に出てきたのが春巻き。これも、特に変わった素材は使ってないと思うのだが感動的に美味かった....小さめなので気づくと酢豚と交互にヤバいくらい食ってる。
海老と卵の炒め物。あらためて写真を見ると、これだけ見た目と味のギャップが凄い食い物も珍しいw。なんて事の無い料理であるが、この卵のフワフワ感はなんだろう。海老のプリプリ感との対比が素晴らしい。ほんのりと中華ハムと干し椎茸の旨味が効いてる。
青梗菜の炒め物。ちょっと味は濃いめだったが、このスープ凄い。花巻かなんかを浸して食いたい....
今日のハイライトその2。豚肉の肉餅。見た目的にはまるいの軟骨ホイルを彷彿とさせるが中身は別もの。包丁で荒く叩いた豚肉をつなぎでまとめて陳皮を効かせた甘めの味付けで蒸したもの。こういう使い方もあるよなぁ。参考になりまくり。
本日のスープ。これも中毒性の高い皿だ。モミジ(鶏の脚)や芋、人参など様々な素材の旨味が合わさってる。でも、これは全部の料理に言えるけどクドくない。書いてるとまた舌に蘇ってくる。
これは頼んだものではなく、お隣のカップルにお裾分けしてもらった豚足である。スープがどうやら飲みきれなさそうだったので、試しに物々交換を持ちかけたら気持ちよく分けてくれた。ちなみにそのカップル、わざわざ新宿から足しげくこの店に通いつめてるこちらのオーナーソムリエだった....危ないなぁ。その時のこっちの会話はといえば、当然のごとくパスタやイタリアンの話(落合某がどーたらとか)を偉そうにしていたので、恐る恐るそのソムリエ氏にこっちの会話について聞いたら、『いやぁ、ウチの悪口言われるかと思ってドキドキしてました』とw。どうやらギリギリセーフだったようだ。
肉料理ばかり食ってたので魚が食いたいと(既にこの時点で10皿目やっちゅーに)、オススメの魚料理を注文。揚げた鯛と豆腐のスープ。これも美味い! 聞けば作り置きでなくいちいち作ってるというのだが、どうしてこんなに短時間で全ての味がそれぞれの具材に染み込んでいるのだろう? 特に豆腐。驚くより他ない。
いよいよフィナーレに向けて〆の料理を。まずはラーメン450円なり。いやぁ、スープは昔ながらの醤油ラーメンの味で特に驚愕の出来というわけではないが、しみじみと美味い。対してこの麺は凄い。歯切れの良さと腰とモチモチ感が見事にバランスとれてる。『この麺おっちゃんが打ってるの?』と聞くと、裏の麺やに特注で作らせてるという。『裏の店で天龍の麺って言えば買えるで』との事なので、今度は行きしなに買っていこうと思う。これならうちでラーメン作りたいなぁと思える。
そして〆二品目(って表現もおかしいが)のチャーハン。海老と卵の炒め物を食ったときにすでに美味い事は想像出来たが、やはりプリプリ&フワフワで美味い。飯が無くなったのか量少なめ。前回は異常に出てきたらしい。やはり適当だw。しかし〆にはちょうど良い量で、綺麗に着地が決まった感じであった。
いやぁ、また一つ凄い店を知ってしまった。少なくとも中華では、今まで食った店の中では、味だけでなく総合的に見れば一番好きだ。横浜育ちゆえ、ガキのころは中華街は庭のようなものだったが、最近は全く足を運んでなかったため全然しらなかった。まぁ知ってても当時ならとても入れないと思うが。聞けばまだ5年ほどしかやってないという。通りで知らんはずだ。何せ山東が改装したのも移転したのも人づてに聞いたくらいだ。しかし5、6年前ということは、70も半ばになってからこの店を始めたという事ではないか。そして80歳になるであろう老体で一日何十回も階段の上がり下り....なんとも凄いジジイだ。こんなじいさんに俺もなりたいと心から思う。
しかしこんな凄い店、本当は人に紹介したくないのが性というものであるが、当のジジイは(ランチ1000円食べ放題なんつー安っぽいチラシを作ってまで(泣))沢山客に来てもらいたいようだし、そもそもこの店自体の色んな意味でのハードルの高さがフィルターとなって、常連になろうなどと思う人間を自ずと篩にかけてくれると思うので、安心して紹介する事にする。『リアル』な中華を求めているなら一度は行った方が良い。行けるものならw。
Comments
こんにちは。
以前、pasata-manさんからCD(80年代PopsをMixしたモノ)を頂戴いたしましたyama-uと申します。
こちらで天龍菜館を紹介されているのを拝見し、元住吉から電車一本なので散歩がてら行ってきました。
店の佇まい・おじさんの人柄に衝撃を受けて、食す前に「また来よう」と決意し、料理が出てきてからは感動すら覚えました。
こちらで紹介していただけなければ、おそらく知ることのないまま過ごしてしていたと思います。ありがとうございました!
追記)
メニューと一緒に、天龍菜館を紹介しているpasta-man.comがプリントアウトされ綺麗にファイリングされていましたw
Commenter: yama-u | 2006年10月29日 10:48
おお、旧chng-komix時代からの読者がw。
ようこそ&お久しぶり。
そういやchang-komixも作ってないなぁ。
もう大体やりたいやつやっちゃったしね。
時間で来たらまた作ろうかなー。
行かれましたか〜、凄かったでしょw。
たいていの人は内装でやられて食も細るんですがw、
流石旧blogからの読者。よくわかってらっしゃる。
>メニューと一緒に、天龍菜館を紹介しているpasta-man.comがプリントアウトされ綺麗にファイリングされていましたw
わはははw。これは嬉しいというかなんというかw、
たいへん笑える報告をありがとう〜。
まさかじいちゃんがプリント出来るとは思えんから、
常連か親族の誰かがやってあげたんだろうねぇ。
じいちゃん生きてるうちにまた行かなきゃ!
Commenter: pasta-man | 2006年11月01日 00:56